*注意

深山鶯邸事件の夜の設定を捏造しています。












案はイタズラから




夜 上二級祓魔師 特別任務

内容 祓魔薬学の向上の為、その研究に協力すること。






「って、態のいい『実験台』になれってことじゃねぇか」

顔を引きつらせて、目の前で優雅に茶を啜る上司に迫る。

「ええ、そうです」

上司は顔色一つ変えずに、ティーカップを置いた。

「ふざけるな。俺は祓魔師として働きたいんだ」

「研究も、立派な祓魔師としての仕事です」

上司は話をしながら、お茶請けに用意してあった、茶菓子を頬張る。
そんな姿を見ていると、イライラが募ってくる。

「そんなもん、医工騎士だけに任せりゃいいだろ。騎士の俺がどうして・・・」

「『憑依された人間から、如何に肉体を傷つけずに悪魔だけを排除するか』という研究です」

「何!?」

「憑依された人間から悪魔を祓った時、少なからず人間にダメージを与えます。悪魔を祓う為とはいえ、人間を傷つけるのは祓魔師としては避けたいこと。たとえ、憑依されたのが、その人間の責任であってもね・・・」

「研究の意図は分かった。けど、俺が『憑依された人間から悪魔を祓う』に実験台なんかになったら、折角あんたがこの体に憑依させた俺は祓われちまうじゃねぇか」


夜は、その昔名前もない様な力の弱い悪魔だった。
それはそれは、仲間たちからも仲間としての扱いをされないほどの、弱い存在だった。
犬の糞を喰い、小便を掛けられ、笑いものにされてきた。
同属のボスからは、悪魔の証でもある尖った羽根もむし取られてしまった。
そんな毎日の中で、一人の人間の女の子に出会った。
その女の子から初めて『愛』を貰い、名前を貰った。
幸せな時間が、初めて与えられたというのに、そんな小さな幸せは同属のボスによって奪われた。
夜は、その少女の為に、ボスに始めて刃向かった。
しかし、力の弱い夜では全く歯が立たなかった。
今まで散々、仲間たちから血を流されてきたが、初めて死ぬかもしれないと思った。
けれど、少女の為になんとしてもボスを倒さなければならなかった。


夜は、敵である祓魔師に縋った。


祓魔師たちからすれば、悪魔である夜も敵。
とどめを射されそうになったその時、一人の祓魔師によって救われた。
その祓魔師が、今の夜の憑依体。

その祓魔師は、重い病に冒されていて余命幾ばくもなかった。
「自分が死ぬ寸前に、憑依しろ」
「祓魔師として一生を捧げるというのなら、この体はくれてやる」っと、ニヤっと笑っていた。

祓魔師の意識もなくなり、もうあと秒読みとなった頃、憑依の儀式が行われた。
魔剣に夜の心臓を封じ込め、祓魔師に憑依した。
その直後、祓魔師の命の気配が完全に消えた。

そんな経緯があっての、今の夜である。
祓魔師になるきっかけとなった、元ボスは随分前に祓ったけれど、目的を果たしたからといってそう簡単に祓われるつもりはない。
祓われてしまっては、体を提供してくれた祓魔師にも申し訳が立たない。


「あなたを祓う?そんな馬鹿な真似しませんよ。憑依した直後の弱い貴方ならまだしも、貴方は本当に強くなった。今では正十字騎士團にいなくてはならない存在です」

「・・・だとしても、俺にとって不利過ぎる」

「『契約』をお忘れですか?」

「・・・っ」

「『正十字騎士團への絶対的服従』それが、貴方を生かし、その体に憑依させるためにかわした契約だったはずです」

「・・・わかったよ」

契約は、体を提供してくれた祓魔師と共に、正十字騎士團と交わしたものだ。
悪魔にとって契約は、何よりも絶対的なモノ。
そして、この契約は夜一人では破棄できないもの。
夜に、初めから拒否権などないのだ。

「ご心配なく。研究者は、とても優秀な医工騎士です。自身も悪魔の仔の弟ですから、貴方を悪いようにはしませんよ」

「悪魔の仔・・・だと?まさか、あのっ」

「えぇ。前聖騎士の藤本獅郎と私が密かに育てた『サタンの落胤』です」

「若君の弟が・・・医工騎士・・・」

「えぇ、それも将来有望なエリートです。なにせ歴代最年少で祓魔師の資格を取りましたからね。なので、安心して研究に参加して下さい」

「はぁ・・・わかったよ」

「良い結果を期待しますよ」






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