「三郎なぁ…一言でいえば、なんの魅力もない奴だな」

普段はどんな三郎の言動にもあまり動じない雷蔵は、俺の言葉に目を見張った。驚きに満ちた表情のまま「魅力がないって?」と尋ねてきた。どうやって説明しようか考えあぐねて、しばらく沈黙を綴った後、「周りの奴がさ、鉢屋三郎って化け物を作ってるんだよ」と持論をゆっくりと述べれば、雷蔵は「あぁ」とかみしめるように呟いた。

下級生から畏怖され、上級生からはその才能に妬まれ、噂に塗り固められた鉢屋は、俺たちの知っている奴とはずいぶんとかけ離れた偶像であった。

「確かにさ、あいつには底知れないところがあると思う」
「うん」
「けどさ、違うだろ」

周囲がなぞる輪郭は俺たちのよく知る鉢屋とは違うのだ。時に、それを叫びたくもなり、時に、それを隠し通したくなる。底知れぬままでいてほしい、そう願うのは我儘か、はたまた……。

「三郎はどう思ってるんだろうね?」
「さぁなぁ。ま、今は楽しんでるみたいだけどな」

下級生を驚かせては目を輝かせ、上級生には唇を緩ませながら嫌味で応対する様を考えれば、純粋に楽しいのだろう。それがまた、彼を化け物呼ばわりする噂を作りだすということに、鉢屋は気付いていない。そう考え込んでいると、「ま、実態を知ったら下級生は幻滅するってことで」と、すっぱり、切り捨てた。

「雷蔵って何気に酷いこと言うよね」
「そう?」

ちらりと皓い歯を見せて、いたずらっ子のように笑う雷蔵は三郎にどことなく似ていた。ふ、と、どうしてこんなことを雷蔵が尋ねてきただろうか、と疑問が沸き、それを彼にぶつけた。

「というかさ、どうしたの、急に」
「んー特に意味はないんだけど、ね」

曖昧に濁した彼に、「本当の三郎を一番知ってるのは、雷蔵じゃないの?」と問いかければ、きしり、とその笑みが軋んだ。少し困ったように眉を寄せ、「そうだといいんだけれど」と呟く。その心細そうな面持ちに「雷蔵?」と思わず問いかけると、彼ははっと表情を作った。柔らかな笑みを浮かべ直し「ん、教えてくれて、ありがと」と俺に礼を言うと、踵を返した。遠ざかっていくその背中に、は、っと気付く。

(もしかして、)



なんの魅力もない人

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