「伊助、いる?」

急に開いた扉に、ぱっと、外の明るさが焼き付いて、目が眩んだ。思わず閉じた眼球の向こうに白い光の残像がちらつく。湿った匂いが冷たい風に乗って硝煙庫に舞い込む。

「虎?」
「あ、ごめん。開けちゃ、まずかったかな」
「大丈夫。どうしたの?」

声だけで入って来た人物を判断し、声を掛ける。ようやく、慣れた目が、申し訳なさそうな彼の表情を捉えた。虎若は、明るいところから逆に暗い所に入ったせいか、何度か、瞬きをしていて。

「火薬を貰いに来たんだ。明日、火縄銃の練習するから」
「熱心だね」
「まぁ、好きなことだからね」

そう言う虎若の目の輝きも、その幸せそうな笑顔も、幼い頃と全く変わらないもので。思わず笑いがこぼれそうになるのを、軽く頬を抑えて誤魔化そうとする。ぼくの行動に不思議そうにしている彼に、慌てて言葉を返す。

「ごめん、ちょっと待っててもらってもいいかい? 今、整理の途中だったから」
「あ、いいよ。手伝う」

断るよりも早く、がっしりとした筋肉が付いた腕が、僕の前に置いてあった壺を軽々と持ち上げた。



***

「ありがとう。虎若のおかげで早く終わったよ」
「いや。いつも使わしてくれるから、これくらいしないとな」

軽くかいた汗のためか、額を袖で拭いながら虎若が答えた。そういえば随分体が温まったなぁ、とほっこりと服に籠る熱を感じる。夜の冷え込みがそのまま滞っている蔵の乾いた寒さが丁度いいくらいだ。

「この台帳に必要な量を書いておいて。後で出しておくよ。明日取りに来て」
「悪いな」

ずっと高い明かりとりからわずかに差し込む明かりを頼りに、虎若が帳面を書きこんでいく。用途、必要量の次に綴る、六のは 佐武虎若 という文字を、その手を眺める。引きつった火傷、何度も擦れて分厚くなった皮膚、硬くなった指先。

------------ きっと、それは虎の努力の跡。

「にしても、すごいな」
「え?」

ぼんやりと眺めていたぼくは、虎若の言葉に顔を上げた。彼の視線は、ずらり、と倉庫を巡る棚に隙間なく埋め尽くされた火薬壺に向けられていた。

「これ、全部、違う種類の火薬が入ってるんだろ?」
「種類っていうか、配合を色々と変えてるんだけどね」
「配合別なのか?」
「ほら、時々、虎とかに試し打ちを頼むことがあるでしょ。予算が限られてるから、できるだけ効果的な配合ができないかと思って、色々試してるんだよ。で、いいのができたら、参考までに残しておいてあるんだ」
「すごいな、伊助」

虎若の称賛の眼差しに照れくささと、さっきとは違う温かさを、ぼくは感じていた。

(「けど、もうちょっと予算がもらえるといいんだけどね」)


 

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