次鉢(ちょっぴりR)

「先輩、相変わらず耳弱いんすね」

生暖かな次屋の唇が言葉を直接私の耳に綴る。快楽に震える髄をやり過ごす。からかいを含む声のくせに見下ろす目は余裕がなさそうで、たとえ何年経とうが、いや何十年時が過ぎようが、己の方が年上であることは変わらないのだと突き付けられた気がした。

ぎちり、と絡めとられた指が折れそうなほど、私をベッドに縫い留める次屋の力は強くて、圧倒的に私の方が不利にも関わらず、だ。久しぶりの再会に喜びを語り合う間もなくベッドに雪崩れ込んだのは、あの頃、会う度にセックス以外のことをしていなかったからかもしれねぇ。

「ピアスの穴、塞がってるっすね」

次屋の舌が耳朶にかつてあった空洞を抉るようにして蠢いているのが分かる。

「働きだしてからずっとしてねぇからな」
「休みの日も?」

驚きに揺れた声が耳を食む。次屋が信じれないのも無理ねぇだろう。かつては、周囲からコレクターだと揶揄されるくらいピアスを体のありとあらゆる場所に着けていたのだから。だがごちゃごちゃ言われるのが面倒で俺はピアスをするのをやめた。

「あぁ…仕事先が煩いからな」

耳からダイレクトに脳に響く水音が消えた。代わりに、じゃら、と蔑むような音が空気を揺らした。きっと膚が見えなくなるくらい重ね付けられていたピアスが、やつが動いたことでぶつかって音を立てたのだろう。

(昔は私もこんなのだったんだろうな)

次屋を見ていると数年前までの自分を思い出す。尖ることが全てだったあの頃、ピアスは勲章だったのだ。より多く、より奇抜な所へ穴を空けることが。

「先輩も随分つまらない男になったっすね」

執拗までに耳を愛撫していた次屋は少し離れた所で私を見下ろしていた。お前は相変わらず生意気だな、と返そうかと思ったが止めておく。代わりに「そんなつまらねぇなら、さっさとどけよ」と未だ絡み付く指の熱を振りほどこうとする。だが、「どきません」と力強い言葉が温もりと共に耳に落ちてきた。

「ピアスしてようがしてなかろうが、俺、先輩の耳が好きなんで」

再び、耳を這いずり回りだした次屋の舌は、けれども、やっぱりピアスの痕跡を穿っていて。まるで、過去に埋められたあの頃を探しているようだった。




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