微睡みの幸福

「お?」

「どうした?」

「明日午前中見回り当番入ってたんですけど、なんか休みになりました」


晩飯も片付けも済まし、明日の朝早いからとお暇しようと腰を上げ掛けた時。鳴ったケータイを見れば一通のメール。宛先が天蔵先輩というのに一瞬硬直してから無駄に緊張する指を動かして開いた文面はまた面倒事かという想像を外れ、逆に喜ばしい知らせが綴られていた。


「明日一日休みでーす」

「良かったな」


万歳、と諸手を上げてソファに沈む。今日は週末明日は休日。休日と言いつつ風紀の仕事という微妙な日だったのだが、一時ダウンしていた人が復帰するという事で交代してくれるらしい。これはマジで嬉しい。何だかんだしっかりとした休みは凄く久し振りだ。喜びに緩む口を押さえられないでいると先輩のケータイに着信が。

ちょっと、と席を外した先輩を待ちその背を見る。先輩は、明日も仕事だろうか。他の役員は一応戻ってきたみたいな話だけど不在だった分の引き継ぎとか埋め合わせとか有るだろうし。いや、今まで先輩一人が頑張ってきたんだからそこはどうにか休ませてくれないかな。
そう悶々と考えている途中、聞こえてきた言葉に思わず腰を浮かせた。


「先輩も明日、お休みなんですか?」

「……寧ろ来るなと言われた」


思わずおぉ、と声を上げる。望んでいた事が叶った喜びと、ちょっとした驚きで。先輩がちゃんと一日休めるのなんて俺が見るのは初めてだから。
眉を寄せ、万里め、と隊長さんの名前を呟いた先輩が溜め息を吐いて戻ってくる。良かったと笑顔で迎えた俺の前で先輩は何故か難しい顔をして腕を組んだ。


「家の仕事も暫く無理だと伝えていたから特に無いし、何をしようか」

「……先輩、休みに仕事したら駄目ですよ」


思いもよらない台詞にガックリ肩を落とす。休みなのにまだ仕事をするってワーカーホリックか。今までの考えたら休むのは逆に落ち着かなく感じるのかもしれないけど。
そう伝えてみると先輩は考えるように唸った後首を傾げた。


「じゃあ、何をすれば良い?」

「えーっと。ゲーム……したりとか、本読んだりとか映画見たりとか?」


ほぼずっとデスクワークだったから軽いスポーツとかできたらストレス発散にも良いだろうけど、今外は安全とは言えないし。だったら部屋でだらだらできるようにと自分がやるものを言い掛けて、先輩がゲームや漫画を読むだろうかと考え直し無難なものを挙げつらう。
本、と言いながら先輩が手に取ったのは何かの専門書。これは読みながら仕事みたいな事始めかねない。折角の隊長さんの心遣いが無駄になるぞこれ。
放っていたら駄目だと判断し、そうだ、と両手を打ち鳴らした。


「良かったら明日映画のDVD持ってきましょうか?」

「良いのか?」

「はい。友達に借りたのがあるので一緒に見ましょう」


少し前、昼食中にテレビであっていたのを見損ねたとぼやいた際丁度持っているからと怜司君が貸してくれたDVD。なかなか時間が取れず借りっぱなしだったそれを今こそ活用させてもらおう。映画鑑賞なら頭使ったりもしないし。
大雑把に時間を決めて放り出していた荷物を取り立ち上がる。そうと決まったなら早く帰って課題やら復習やらやらなきゃならない事は今日の内に済ませてしまおう。教科毎の進行具合を思い出しつつ玄関へ向かい、靴を履いたところで後ろに振り返った。


「じゃあ明日朝から遊びに来ますね」

「あぁ、待ってる」


表情を緩めて見送る先輩に笑い返しそうっと扉を潜ってエレベーターまで忍び足で駆け込む。
朝から先輩の部屋にお邪魔するなんて初めてだ。部屋にはいつも行っているのだけど明日は晩飯の為じゃなくて、ただ遊びに行く。ただそれだけなのになんだかとてもワクワクする。
勝手に笑う口をそのままに、どうせだからDVDだけじゃなくて試しにゲームも持っていってみようかと色々考えながら自室へと足を踏み入れた。




そうして迎えた次の朝。借りたDVDといくつかゲーム。ついでにお菓子も持って部屋に行けばいつも使っているテーブルやソファが移動していた。聞けばこうした方が見易いだろうという返事。
確かにテレビを見易い配置になっているのだけど、先輩一人で態々やってくれたのか。別に俺が来てから一緒にやっても良かっただろうに。でもその行動が見るのを楽しみにしてくれて、という事なのならちょっと嬉しい。
どこか満足そうにしている先輩の様子に小さく笑いながら見る準備を始めた。


「先輩って映画見たりします?」

「話題用にあらすじ程度調べる事はあっても通して見る事はそうそう無いな」


話題用……って、あぁ。社交的な付き合いとかでか。あれ。じゃあこれもある意味仕事に繋がる……いや、流石にそれは考えすぎって事にしよう。








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