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頭を振って気持ちを切り替え先輩の隣に座り再生ボタンを押す。製作会社のテロップが映し出されるのを見ながらお菓子の袋を開けた。


「吉里はよく見るのか?」

「いやー、俺もそんなには見ないですね。たまにテレビであるのを見たりとかぐらいで」


先輩に開け口を差し出しながら答えればそうか、と返される。摘まんだチョコ菓子をまじまじ見る姿に、こういう駄菓子もそう食べないんだろうなぁ、と黄昏そうになりながら流れるCMに目を向けた。
暫くして本編が始まり、二人でお菓子を食べつつ鑑賞する。途中途中驚いてみたり突っ込みを入れてみたりたまに短い会話を挟みながら見る映画は結構面白かった。返す時怜司君にはしっかりお礼言おう。

そう思いつつ話に引き込まれていたら中弛み気味の単調なシーンに入った。この後に続く伏線とかあるのかな、とジッと画面を見ていると、不意に横から重みが。何だと驚いて顔を向けると、艶の有る黒髪が肩に乗っていた。


「先輩?」

「…………」


返事の代わりに穏やかな寝息。映画に夢中になっている間にいつの間にか寝てしまっていたのか。道理で静かだと。て言うかやっぱり凄く疲れていたんじゃないか。これでまだ仕事をするつもりだったのかと若干呆れる。

まぁ、それは置いておいて。このままだと首が痛くなりそうだ。身長差で変な体勢になっている先輩をどうやって寝易い体勢にしてやるか考える。取り敢えず頭ソファに下ろしてそのまま寝かせるか?そして寝室から何か掛ける物でも取って来よう。
よし、と体を動かした瞬間、肩から頭がズルリと滑った。咄嗟に手を伸ばして支えようとしたが間に合わず、先輩の頭は俺の膝に着地する。


「すっ、すみません!大丈夫ですか!?」

「…………」

「……先輩?」


慌てて訊ねるが返事が無い。恐る恐る顔を覗き込んでみれば目を閉じたまま何事も無かったように穏やかな呼吸していて。これは完全に寝ているようだ。結構衝撃あっただろうに爆睡か。何かもう、今日はDVDとかじゃなく昼寝を提案するべきだったわ。

膝の上、こちらを向かせた顔に視線を落とす。閉じられた瞼をなぞり目の下に触れた。隈等が無い事に安堵はする。けど疲労の度合いや根深さがどれ程かは分からず眉をひそめた。


「先輩。寝るならちゃんとベッド行きましょう?」

「…………」

「無理ですかー……」


こんな狭い所より布団で寝た方が疲れは取れる。そう思って声を掛けてもすー、と気持ち良さそうな寝息が聞こえるだけで起きるどころか動く気配も無い。
うーんと唸り悩んだが、自力で動けない。俺が抱えるには力が足りない。という状況ではどうする事もできない。寝心地は悪かろうがこのまま寝かせてやろう。
そう諦めリモコンを手に取って空調を弄り、膝掛けは無いから気休め程度にクッションを寄せる。そうして膝に乗る頭をそうっと撫でた。


「……膝、固くないですかー?」

「…………」

「……寝心地悪くありません?」

「…………」


返事が無いのを分かっていながらひそひそと問い膝上の頭を撫でる。サラサラと零れる黒髪に指を通してはまたすいて。全然反応は無くてもなかなかに面白い。頬をつついて摘まめば流石に眉間にシワが寄ったが宥めるよう撫でれば何か呟いて力を抜く。それに笑いながらトントンと腹を叩いた。

先輩弄りを一通り楽しんだ後映画へ目を戻せば物語はもう終盤。途中から見ていなかったせいで分からないところはあるがそのままクライマックスを見守る。何だかんだハッピーエンドで終わったそれにホッとしていればスタッフロールが終わったところで小さな声が下から聞こえた。


「あ。起きました?」

「……ん」

「じゃあそろそろ昼飯でも食いましょうか」

「…………うん」

「先輩?」


不明瞭な返事に首を傾げて先輩を見下ろす。眉を顰めた先輩は起きるのかと思いきや寝返りを打ち、俺の腹側に顔を向けて膝にしがみつくみたいにしてまた寝る体勢になった。そしてまるでむずかるように額をグリグリと押し付けられ驚く。


「先輩、擽ったいです」


そう言って軽く頭を押さえれば止まり、膝に顔を埋めたまままた寝息を立て始めた。その一連の流れは普段キリッとしている先輩に似合わず子供の甘えたみたいで、何だか可笑しい。
クスクス笑いながら乱れた髪を戻す。


「せんぱーい」

「…………」

「飯食わなくて大丈夫ですか?」

「…………、」

「はい?」

「……もう……すこし」


このまま、とボソボソ呟いてより丸まった先輩。まるで安心しきって身を委ねているかのような様子に何と無く嬉しくなる。
一等優しく感じるようにゆっくり頭を撫でた後、緩む口を開く。


「おやすみなさい」


ん、と短くも返ってきた反応にふわっと気分が良くなる。やっぱり何かしらリアクションあった方が嬉しい。クッションの位置を動かし、寝易いよう整える。
明日になればお互いまた忙殺の日々に身をやつす事になる。ならばせめてこの一時だけはそういったものを忘れて穏やかにすごそう。
安らかに眠る先輩へお疲れ様です、と囁き微かに微笑む口の端をチョンと擽ってやった。





微睡みの幸福








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