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手元の書類を片付け終え、別の仕事に向かう吉里に軽く手を振る。今日の分の報告書に筆を滑らせながら、今度は連休中、吉里に勉強会へ誘われた時の事を思い出した。











それに誘われた時、ちょっと迷った。一応自分の見た目は自覚しているからひょっとしたら面倒な事になったり迷惑かけるんじゃないかと。でも結局、吉里の友人なら大丈夫だろうとお邪魔した。

昔やらかした時以来、友達はいない事はないがゲームや漫画について話せる相手はいない。だから、ゲーム好きな奴がいるという話につい飛び付いた。一応副委員長もオタクではあるけどなんでもBLに話し持ち込むから話すのはキツい。吉里も話は聞いてくれるがやっぱり趣味の合う相手と語ってみたいという誘惑に負けたのだ。


そうしてそわそわしながら待ったその日。来たのは背の高いスポーツマンと小柄な確か誰かの親衛隊員。この二人は崇拝対象にまではならないだろうがそれなりに整った顔をしている。あと一人は辛うじて想像通りに普通で真面目そうな生徒。
意外な組み合わせに驚いた。吉里のイメージ的に大人しいか、ゲーム好きと言っていたからちょっとオタクっぽい奴等が来るのだろうと思っていたのに。何この派手と地味が合わさったメンバー。え、てか話合うの?このメンツ。

そう戸惑いながらも接する内にお互い慣れて気が付けば大きいのと小さいのの三人でゲームを囲んでいた。たまに背後からチクチクと視線を感じるがそれよりも目の前の事に夢中になっている。どちらも初めは遠慮していたのに慣れれば懐っこく接してくるし、大柄の、清崎という奴とはゲームの好みが結構被っていたので話は弾むし。久し振りに素で会話を楽しんだ。




昼飯を食べ終えるとゲームを楽しんだ三人で今度はテーブルを囲む。広がるプリントやノートを見ながらそう言えばこれ勉強会だったと思い出し、気不味く首を掻いた。
眼鏡を掛けた奴、藤澤に静かに淡々と嫌味と脅しをかけられ慌てて二人に勉強を教え始める。大人しいかと思っていたのに意外と怖い。背に嫌な汗を掻きながら早く課題を終わらせる為身を乗り出した。


「なー、東雲ー」

「なんだ」

「えっと……ゆーまって風紀だとどんなかんじなの?」


吉里と藤澤が片付けに引っ込んだ後、恐る恐るといった感じで聞いてくる清崎と小町。その様子にあぁ、と小さく呟いて言葉を探す。


「ボーッとしてるようでしっかりと仕事頑張ってる、よ」


……うでボーッとしている、という言葉は閉じた口の中だけで話した。別に悪口じゃないけど、言わなくても良いかと思って。

さっきも言ったように、吉里はとぼけた顔をしていながらも外での仕事はできる。でも、それ以外の時は何かボーッとしていたり一人黙々と作業をしていたりする。
いつもへらっと笑っていて要領悪そうに見えるが基本面倒事起きそうな時はいつの間にか逃げていたり。たまに話を聞いているようで聞いていなかったり。かと思いきやしっかり聞いていて人の色んな情報知っていたり。
……熟よくわからん奴だとしみじみ考えていると、小町は目を輝かせて清崎の腕をバシバシと叩いた。


「ほら、やっぱゆーまはスゴいんだって!」

「ん〜……。まあなあ」

「ごめんね?きゅーに変なこと聞いて」

「いや、別に」


変ではないけど。力の弱い吉里を心配しての質問なんだろうし。と、思っていたのだが、そんな感じではなさそうだ。心配というか確認?吉里は風紀でもやっていけるとしっかり信じているみたいだ。凄いな。友人だからか。
へぇ、と感心していると、でも、と遠慮がちな目が見上げてきた。


「やっぱ風紀、いっぱいいそがしい?」

「……そうだな」


最近はある生徒のせいで殆ど休みがない。王道だとか姉妹や副委員長が言っていたけど、そのまんまな状況に今はもう怒りを越えて溜め息しか出ない。授業にすらあまり出られなくなるなんて入った頃は思わなかったし。
一人黄昏そうになっていたら清崎が困った顔をしながら口を開いた。


「風紀、ちゃんとやれてるのはホッとしたけどさ。あー……、こー言うのもなんだけど、アイツ、なんか無理してそうで心配だから……なんかあったら頼むわ」

「あぁ、それは勿論」


頭を掻きながら頼む相手に頷いて見せる。途端ほっと表情を崩す二人にそっと笑った。やっぱ、吉里の友人だな。いい奴等だ。


微妙に湿っぽくなった空気を吹き飛ばそうと、鞄に手を伸ばす。ちょっとだけ、と始めたゲームが午前の時のように後5分、後もう一ゲームと延びる内に時間が過ぎ、ハッと気付けば戸口に真っ黒な空気を纏った笑顔の藤澤が。


……取り敢えずあれだ、藤澤はなんか苦手だ。うん。











その時の痺れまで思い出してしまい顔を顰めて足を擦る。よっぽど嫌そうな顔をしていたのか正面の奴に心配されてしまった。大丈夫と伝えてペンを握り直す。思い出している内に手が止まっていたようで、インクが滲んでしまったザラ紙を脇に退けた。
あの二人が心配する友人かつ俺の相方は、この学園に慣れたようでたぶんまだ気を張っている。仕事に一生懸命なのは良い事だが、彼らの言うようあまり無茶をさせないようにしなければ。自分の友人でもあるのだし。……あ、友達の為に〜とか、なんか青春っぽい。


照れ臭いけどテンション上がるな、とか考えていたら知らず百面相になっていたらしく、正面の奴が変な物を見る目で俺を見ていた。ムカついて小さな消しゴムを投げ付ける。見事額に当たった奴が小声で文句を言うのを鼻で笑って聞き流し、サクサクと仕事を終わらせていった。







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