相方について

今日もせっせと仕事を片付けながら、ふと思う。同じ風紀委員であり仕事上俺の相方である吉里悠真は、ぶっちゃけよく分からない奴だ、と。


荒仕事も時としてはやらねばならない風紀委員の中では数少ない非戦闘員の一人。剣道を習っていたらしくなよっちくはないが、力というか闘争心が弱いというか。兎に角戦闘には向かない奴。
どうあっても一般生徒にしか見えないこいつは初めて会った時風紀、というかこの学園で無事やっていけるのかと不安になったものだ。しかしここの生活には結構直ぐに順応し、そして意外にしっかりと仕事を熟している。


「吉里ってどっちかってーとオペレーターとかやってそうな感じだよな」

「そうですか?」

「インカムとか付けて指示出したり、パソコンすげースピードで打ってたり」

「あ、それ憧れますね」


必要事項を書いた書類を横に渡す。それを受け取った吉里は種類毎にバインダーに留めていく。流れ作業にボーッとしそうな頭を喋る事でなんとか保ち、てきぱきと作業を進める。
普通な作業で普通にしているようで、しかし交わされる会話は微妙にオタクくさい話になっている。こんな会話誰かと出来るなんて思ってもいなかった。



いつだったか何かの切っ掛けで俺等に自分の萌えについてブレーキを無くしたように語り出した副委員長。それにうっかりぶちギレて自分のオタク論、……流れではまっている漫画やゲームを誉め称えたり名言口走ったりしながら激論を交わしてしまった事がある。スイッチが入った時だけとはいえ人目を憚らずオタク話をする事に堪えられなかったのだ。言動内容が姉や妹のに似ているのがまた怒りに拍車をかけてくるし。これさえなけりゃ良い人なのに……。

そうして頭に血が上ったまま口を動かしていた最中、「あ、その漫画俺も好きです」という声に思考が止まった。ハッと振り返ればキョトンとした顔で俺を見る吉里。そして一瞬にして正気に戻った俺の目に、明らかに引いた様子の風紀メンバーが映る。一気に血の気が引いた俺は目を輝かせた副委員長に処理済みの書類を叩き付けてその日は逃げ帰った。

やってしまった。もう、駄目だ。そんな思いで制服のまま布団に潜り込む。
前も仲良くなった友人を相手にゲーム話で白熱して暴走したらドン引かれて離れられた。それ以来オタクな面は人前で出さないようにしていたのに……。今度は委員会全員かよ。も、やだ。風紀辞めたい。噂広まるかな。ならいっそ学校辞めたい。副委員長一発殴ってから。
そんな事でゲームも漫画もネットも好きな事全部出来ないまま真っ暗な部屋で一晩グダグダと眠れぬ夜を過ごした。俺の高校生活、完全に終わったと落ち込みながら。



しかし現在、目の前には会話の流れるままロボット系アニメの話になってもうんうんと頷いて話す吉里。相槌を打つ顔には嫌悪も何も無く、ただ興味深そうに話を聞いている。

あの次の日もこうだった。辞めるにしても行かねばならんだろうと来た俺に、吉里は本当に極普通に話しかけてきた。それどころか詰まっているゲームの攻略法とか訊ねてきたり
、語りに暴走しても分からないなりに聞いてくれたり。同じオタク仲間かと思いきやそうでもないし、なんで?と聞いても何が?と返されるし。
そんな感じで吉里があんまりにも普通に接するものだから周りも慣れてきたようで最近では特に気にする様子も無い。あの時は敬遠したそうな顔をしていたのに寧ろ話に加わる奴もいる。
ぼっちか引き篭り確定だと思っていた俺の日常は忙しいながらも想像以上に快適なものになっていた。


「あれ?東雲君、それ内容違いませんか?」

「ん、あ、ほんとだ。……あいつ間違えたな」

「あはは」


書類に混じって入っていた資料はさっきまで横で作業をしていた奴が扱っていた物だ。その同級生へ返す為席を立つ。礼を言って手を動かす吉里を置いて隣部屋へ向かった。ヘラッと笑って見送る姿は、やっぱりどこまでも普通だ。


他の仕事中も、こんな感じで凄く普通。
風紀は力業な事態を想定して荒っぽい奴が多い。俺もどちらかと言えばちょっとキレやすい方だ。でも、争い事の全部が力で解決する訳もない。下手をすると逆に悪化させる事もある。

そんな中仲裁や聞き出し役として吉里は抜群に力を発揮していた。
殺伐とした状況でも殆どのほほんとした姿勢を崩さず、被害者を労ったり強面相手にも話を聞きに行ったり。本当は怖いと思っているらしいが表面的には普通に対応しているようにしか見えない。そういう態度だから気が立っている奴等も大抵徐々に落ち着きを取り戻していく。普通って凄い。
だが嘘や誤魔化しには敏感で、矛盾をやんわり突っ込んではジワジワと話を引き摺り出すのは……あんまり普通じゃないか。

そんな訳で初めの頃は弱いからと馬鹿にしていた奴等も、今ではそれなりに認めるようになった。それをスカウトした委員長じゃなく副委員長がドヤ顔で見ている事だけが納得いかないけど。

そういやたまに副委員長が聞き出し方のアドバイスをしているみたいだが、こいつこれからどうなるんだろう。凄まじい奴になるのか。……それでも普通なまんまでいそうな気がする。


「……何だかんだ凄いよな。お前」

「はい?」


戻ってから開口一番にそう呟く。捌き終わった書類を綺麗に並べた吉里が不思議そうに首を傾げるのを見ながら、一人うんうんと頷いた。







五万記念
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