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「何言ってんの!?部屋入った瞬間の僕の気持ちわかる!?甘ったるすぎていっそ逃げたいくらいだったんだよ!」

「……じゃあ放って出ていけば良いじゃないか」

「ほっとけるか!アンタは兎も角!つかそのリアクションだとマジでやっとちゃんとわかったみたいだけど!吉里くんも完璧そうでしょ!見てよあの顔あのオーラ!それで何も考えてないってあり得ない!」

「だから、そんな訳無いだろう。……そいつは、違う」

「はぁ゙ん!?」


下からねめつける隊長さんを先輩が睨み下ろす。え、俺が何?てか仲裁しなきゃ……とは思うが二人共雰囲気が怖く。ハラハラと見守っていると隊長さんがクルリとこちらを振り向いた。


「吉里くん!」

「うへぇいっ!?」

「君、タカのことす、ぶっ!!」


何かを言い掛けた隊長さんの顔に大きな手が後ろから叩き付けられる。チラリと隊長さんの背後を窺えば険しく顰められた眉間。釣り上がった目。……先輩、凄く、怒っている?
剣幕に怯みながら見上げる。俺の視線に気付いた先輩は一瞬何か耐えるような顔をした後、そっと目を伏せながら口を開いた。


「何でもないから。……お前は何も気にするな。何も、聞かなくて良い」


言い含めるような声色にカクリと頷く。考える前に頭を動かしてしまったが、何もって……何だろう。
隊長さんは口を塞がれたままムームーと文句を言って暴れていたが俺達のやり取りを見てジト目になる。そうして大人しくなった後、塞ぐ手を叩いて離させた。


「……オッケー、わかった。よっっっくわかったよ。タカ。そこまでゆーなら、わかってるよね」

「…………」

「でもさ……本当にそれでいいの?」

「……何の話だ」


サラリと本当に何でもないかのよう返した先輩へ、このヤロウ、と隊長さんが吐き捨てるように呟く。また険悪な感じになるのかとヒヤヒヤしていると隊長さんは深く溜め息を吐いて前髪を掻き上げた。


「……もう、いーや。取り敢えずアンタは着替えてこい。部屋でまで固っ苦しい格好しやがって鬱陶しい」

「……余計な事を言うなよ」

「うっさいな。シッシッ」


片手を払い先輩を追いやった隊長さんは寝室のドアが閉まると俺を呼び寄せ並んでソファに座った。隊長さんは落ち着いた様子だけど俺的には険悪な空気が尾を引いていて腰が退ける。喧嘩?の原因に俺入っているっぽいし。何か怒られるのだろうかと緊張していると、隊長さんが体をずらしてこちらを向いた。


「吉里くん」

「は、はいっ」

「改めて聞くけど、タカのことす、」


ガンッ!と寝室のドアが音を立てる。驚き固まっていると横からチッと舌打ちが。え、何。まだ喧嘩続行してんのこれ。
驚いた体勢のままでいると、隊長さんは深々と溜め息を吐いた。それにゆるゆると強張りを解く。頭を掻き何事か考えた隊長さんは、よし、と呟き小声で訊ねてきた。


「……タカのこと、どー思ってる?」

「え?」


丸く、真剣な眼差しが何かを探るように射抜いてくる。どういう意図を含んだ質問なのか。


「……好き、です」

「……うん」

「って言っても変な意味じゃないですからね?」

「……うん。うん。」


相槌だけの返事を聞きながら、本当ですよ?と念を押す。考えてみたけれど何が目的の質問なのか分からない。だから素直に言った。さっきからたぶん隊長さんが訊こうとしていた質問に答える形で。
これで良いのだろうかと反応を待つ。すると、腕を組み目を閉じでいた隊長さんが頭を抱えて踞った。


「これはマジか……。天然っぽいとは思ってたけど、ここまで鈍いなんて……」


ボソッと呟かれた台詞に文句を言い掛ける。鈍いだなんて、……いや自分が鋭いとは思わないけど。いったい何をもって鈍いと言われているのか。訊ねても呆れた顔か哀れみの顔をされそうで。意地でも自分で気付こうと先程の答えを振り返る。

好きは、ただの好きだ。親愛とか、敬愛とか、たぶんそんな感じで。あの時は葵君達へ告げたように勢いで言った言葉だけど確かに俺の中にある気持ちで間違いない。……だけど。葵君達への想いとはちょっと、いや、何かが決定的に違うような……。
思考に浸り掛けた所で、ジリッと胸の奥が焼ける音を耳にする。それは何だと考える前に、見えたのはしっかり閉ざされた寝室のドア。


「…………」




「……あー!もう!アイツの事情とか知るか!僕は好きにやるからね!」

「うわっ!はいっ……?」


ガバリと頭を上げた隊長さんが叫んで指を突きつけてきて意識を戻す。何を好きにするのかというのも疑問だが、他に何か考えようとしていたんだけど……何だっけ。
少しぼんやりする頭を振っていると寝室のドアが開いた。着替えて出てきた先輩を隊長さんが睨む。それを無視して先輩は俺の傍らに立った。


「……悪いな」

「いえ……」


何に対する謝罪なのか。急に始まった喧嘩に巻き込んだ事?
苦笑して返すと困ったように笑った先輩が上げた手を一度迷うように止め、ゆっくりこちらへ向ける。頬に触れられるかと思った指先は頭へ乗せられた。優しく撫でる動きに目を細めて笑う。それを見た先輩もほっとした様子で笑う。
その笑みに、これで良いんだという考えがふと脳裏に浮かんだ。これが良いんだ。これが一番だ。ヘラっと顔を緩めながら唱える。……これで良い、なら、悪いのは何なのか。
チリチリと、焼けるような小さな疑問は、遠くでパタンと閉じたドアの音に吹き消された。



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