「さあ、さすがにもう後がないんじゃない?」
「くっ…しまったな」

廊下の先の部屋から唐突に聞こえた会話。聞き覚えのある声に、ナターシャは歩きながらチェックしていた資料から顔を上げた。
今のは、間違いなくナマエとスティーブの声だ。しかし、なにやら緊張感を孕んだ声色に、思わず眉を顰める。

「私を倒そうなんて良い度胸してるわ、ホント」
「それは褒め言葉として受け取っておくよ…」

倒す?キャプテンが、ナマエを?
不穏な雲行きの会話に、無意識のうちに気配を潜めて部屋のドアに近づく。

「さすがナマエだ…でも」
「っ?!」
「運も実力のうち、って言うだろう…?」
「嘘…そんな…!」

ナマエの声に続いて、ガタッと何かが倒れる大きな音がした。
わずかに開いたドアの隙間から、そっと中を覗き見る。
すると…。

「ロイヤルストレートフラッシュ…!!」

テーブルを挟んで向かい合うナマエとスティーブ。立ち上がって呆然とするナマエの足元には、椅子が倒れている。対するスティーブは、頬杖をついて余裕の表情だ。そして、テーブルの上に広げられたトランプ。

「さあて、これでコイツはもう僕のものだな」
「ちょ、ちょっと待って!もう一回、もう一回やらせて!!」
「ダメだよ。5回戦一発勝負って、ナマエが最初に言ったんじゃないか」
「そ、それはそうだけど…!」

テーブルの角に置かれた紙切れを手に取り、ぴらぴらとナマエに見せびらかすスティーブ。オシャレなロゴがプリントされたその紙を見て、昨日ナマエが、つい最近オープンした超人気カフェの限定メニューの引換券をゲットしたのだと、嬉しそうに話していたことを思い出した。

「〜〜〜っ、こうなったら力づくだー!!!」
「え、ちょ、ナマエ…!!」

テーブルを乗り越える勢いで、スティーブの持つ引換券を奪いに飛びかかるナマエ。しかし、椅子から立ち上がったスティーブが腕を頭上高く上げたことで、スティーブよりもずっと背の低いナマエには到底届かない高さになってしまった。それでもナマエは、ぴょんぴょん飛び上がりながら必死に手を伸ばす。
そんなナマエを心底愛おしそうに微笑んで見つめるスティーブは、小さく笑いを漏らすと両腕でナマエの小柄な体を抱き込んだ、

「ナマエ、確かにこれは僕のものだ。でも、僕が使うなんて一言も言ってないだろう?」
「え…」
「明日の正午、迎えに行くから。お腹空かせておいて」

ナマエを優しく抱きしめたまま嬉しそうに話すスティーブ。その言葉を聞いた途端、ナマエはパッと笑顔を見せ、スティーブ大好き!と世界の英雄の首元に抱きついた。

スティーブがナマエの頬に手を添え、二人の顔が近づく。
そこまで見届けたところで、気配を消したままそっとドアから離れたナターシャは、小さくため息をつきながら呆れた笑みをこぼした。
まったく、見せつけてくれるじゃない。



姫君と騎士のお遊び

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さき様、リクエストありがとうございました!そして、とても遅くなってしまい大っっっ変申し訳ございませんでした…!!
「キャプテンと子供のようにきゃっきゃするお話」とのリクエストでしたが、正直に申し上げますと、私の乏しい妄想力ではきゃっきゃするキャプテンがなかなかイメージできず……リクエスト頂いた内容とは少し違ったものになってしまいました…申し訳ございません…!
ですが、少しでも楽しんでいただけましたら大変嬉しく思います。
リクを頂いてからとても時間が経ってしまいましたので、もう見ていらっしゃらない可能性が高いかと思いますが…もしまだお越しいただけているようでしたら、楽しんでいただければと思います!
改めまして、リクエストありがとうございました!!


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