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「“かなさん”」

しばらく続いた沈黙を破ったのは、知念くんだった。

「(…昨日と同じだ)」

昨日よりもずっと顔が赤いけど、真剣な表情は昨日の知念くんのものと同じだった。
彼の瞳が、一直線に私を見つめてくる。

「“かなさん”は、」

もう知念くんの声しか、聞こえない。
金縛りにあったみたいに、1ミリも動けない。

「“好き”っていう意味さぁ」

時が止まってしまったかのような感覚。
そしてだんだんと、知念くんの言葉が私の心に染み込んでいく。

「…二人で帰った日、」

知念くんは続けた。

「ミョウジさん…両親の話したとき、でーじ辛そうだった…」

「ミョウジさんを守りたい……あんな悲しそうな顔、もう二度とさせたくない」

「誰かに対してこんな風に思ったの、初めてさぁ」

「自分勝手かも知れんやしが、」

「わんは、ミョウジさんの寂しさを埋める存在になりたいんやさぁ」

「…でーじ、かなさん」

柔らかな感情が、胸の中で広がっていく。
それはきっと、嬉しい気持ちと、愛しい気持ち。

「…私だって、」

私はそう言いながら、知念くんの両手をとった。
知念くんの手は大きくて、私の手なんかじゃとても覆いきれない。
それでも、

「私だって、知念くんの寂しさを埋める存在になりたい」

私だって、知念くんの悲しむ顔、見たくない。
知念くんの笑顔を、もっと見ていたい。

「好き、だから……」

そこまで言ってしまってから急に恥ずかしくなってきて、思わず俯くと、知念くんがギュッと手を握りかえしてきた。
ああ、あったかい。
顔を上げると、そこにあるのは知念くんの笑顔。
今までで一番、優しい笑顔。
この幸せなときを、私は一生忘れないだろう。


***

自分と彼女が、今、同じ気持ちで向き合っている。
握った手から伝わる、彼女の暖かさ。
この幸せなときを、忘れなどしない。


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