ナマエならあっちに、という言葉の通りに歩を進めた先で目にしたのは、僕の知らない男と親しげに話す彼女の姿だった。

咄嗟にもと来た道を戻り、周りに誰もいないのを確認して足を止める。


頭を撫でられ頬を赤く染めるナマエの顔が、脳裏に焼きついて離れない。

僕の前でそんな表情をしたこと、一度もないじゃないか。

と、そこまで考えて、自分はなにを勘違いしていたんだと気づかされた。



僕とナマエは、別に付き合ってるわけじゃない。

ただ何度か任務で同じチームになったことがあるだけの仲だ。

それでも、顔をあわせれば彼女からいろいろ話しかけてくれるし、ここ最近で以前にも増して親密になれた気がしていた。

だから、少し浮かれていたんだ。


「モタモタしてると、誰かに取られちゃうわよ」


以前、ナターシャにもそう言われたことがあった。

かわいくて気立ての良いナマエに言い寄る男は少なくないだろう。

それでも、僕は他の男よりは彼女に近いところにいると、勝手に思い込んでいた。


でもこうして実際にナマエが他の男と親しげにしているのを見て、狼狽え嫉妬している、みっともない自分がいる。

もし……もし彼女が、僕以外の誰かのものになってしまったら……僕は、


「キャプテン!」


突然耳に飛び込んできた声にハッとして顔を上げると、少し離れたところからナマエが駆け寄ってくるのが目に入った。


「どうしたんです? こんな所で」

「あ、いや……何でもないよ」


その笑顔も、優しい声も、澄んだ瞳も、すべて僕だけに向けていてほしいのに。

ダメだ、ダメだと思いながらも、どす黒い感情が心の中で渦巻いていく。


「…好きなのか? 彼のことが」

「へ?」


考えるよりも先に、口が動いていた。

ナマエはキョトンとして僕を見上げている。


「さっき、誰かと話してただろう」

「あぁ、あれは……」


ふふ、と照れたように微笑むナマエ。

嫌な想像が頭の中に溢れだして、焦りばかりが募っていく。


モタモタしてたら、誰かに………。



ああ、どうして。

どうしてきみは僕のものになってくれない?

こんなに、こんなにきみのことが、


「ナマエのことが好きなのに…!」

「えっ…?」


気がついた時には、ナマエの両肩をガッシリ掴み、本音を口にしてしまっていた。


「…………っあ、いや、その…!」


頭が真っ白になって、言葉が出てこない。

最悪だ。こんな……こんな僕を、ナマエはきっと受け入れてくれない。

それどころか、突然変なことを言いだした僕を気味悪く思うかもしれない。


ふらり、と後退り、足元に視線を落としていると、ナマエの手が僕の頬にそっと添えられた。

その手から視線を辿っていくと、そこにあったのは、

さっき、あの男に見せていたような……いや、それよりももっと可愛い、頬を真っ赤に染めて微笑むナマエの顔だった。








「えっと、彼はわたしの幼馴染みなんです」


いつまでも子供扱いするから恥ずかしくて、と苦笑いするナマエ。

ナマエの幼馴染みがシールドにいるなんて、ちっとも知らなかった。


「……ずいぶん、仲が良いんだね」

「ええ、まぁ。5歳のときからよく遊んでましたから。でも彼、もう結婚して子どももいるんですよ?」

「そ、そうか……」


妻子持ちと分かってもなお、まだ嫉妬心と警戒心の解けない自分に、我ながら呆れてしまう。

そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、ナマエは僕の手をとると、その漆黒の瞳でまっすぐ僕を見つめた。


「さっきも言いましたけど……私が好きなのはキャプテンだけです。だから、心配しないでください」


ね?と首をかしげるナマエに堪らなくなって、思わずその華奢な体をしっかりと抱きしめた。



僕だけのきみでいて

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くく丸様、リクエストありがとうございます!
ご希望の内容に沿えていますでしょうか?
素敵なリクなのに、こんな駄文で申し訳ないです…!
お祝いメッセージも、とても嬉しかったです!
ありがとうございました!!


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