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愛ゆえに中毒  




 結構いい性格してるよね、って、昔からよく言われる嫌味の一つ。もはや褒め言葉だと思って笑いながら流してるけど、ある程度は事実なのだから仕方ない。自覚あるだけマシってもんじゃない? 違うか。
 黒曜に誘われて入ったこのスターレスという居場所も、いる分には楽しいけど、たまに冷めちゃうときもある。皆ほど必死になれない、みたいな。そりゃあワケありの子ばっかりだし、あいつらの「後がない」とかすぐ考えちゃうとこ、若さからくる焦りみたいなのは俺にもわかるよ。わかるけど。ちょーっと、俺はそこまでいっかな、と引いちゃう瞬間はあるのよ、やっぱり。
 例えばさ、黒曜とかは、自分がどうでもいいと思ってることでも、周りに煽られたらすぐ乗るじゃん。ああいうのって本人には変えようがないとこなんだろうと思う。俺の適当さとか人のこと軽く扱っちゃうとことか(ちゃんと「悪いことしてんなー俺」、って思ってるよ? 一応は)と同じで。ま、今さら黒曜が鷹見みたいになっても気持ち悪いし、多少害があっても今のままでいいや。その話はまあいいとして。
 で、俺がどーしようもなく冷めちゃうとするでしょ。そうしたらなーんもやる気なくなって放り投げちゃう! ってなりたいのはやまやまだけど、それ許されるの学生までだからさすがの俺でもやんない。曲がりなりにも給料もらって働いてる社会人だしさ。気分乗らなくても乗ってるフリしてステージに立つし、歌う。もちろん周りにはバレてて、モクレンとかには後で蹴り食らうけど。結構痛いんだよなぁ、あれ。
 そういう日常に疲れたサラリーマン的な仕事のやり過ごし方をしてる日は、終わるまでが長く感じる。帰り支度する時間になったらもう、100%彼女に会うことしか頭にない。
 別に俺のこととか気にせずスターレスに客として来てくれればいいのに、彼女はなかなかスターレスには来てくれない。行くだけで緊張するとかなんとか、言い訳はしてたけど、要するに俺がお客さんからきゃーきゃーもてはやされてるのに妬いちゃうんだって。あ、本人から聞いたわけじゃなくて俺の想像だけどね。かわいっ。大好き。超絶愛してる。そんな具合に、俺は本気なんだけどねえ、全然本気にしてもらえない。なんで?
 早く会いたいなぁとか考えてると無意識に煙草に手がのびる。いつだったっけ、鷹見が「アルコール中毒の人間はお酒が好きだから飲んでるんじゃないんですよ」って話してたな。あれと似てる。必要ないのに、欲しいわけじゃないのに、口にしてしまうことがある。だからか、ちょっと前に彼女に抱きついたとき「晶、煙草のにおいする」とか言われちゃった。一応客商売だから気をつけてるつもりなんだけど、消したつもりでもそれなりに残ってはいるらしい。
 久しぶりに彼女の部屋に泊まるつもりだし今日はさすがに我慢しないとなー、と、頑張ってはみた。仕事始まるまでは意味なく携帯見て時間潰したりして。けど習慣ってもんはそう簡単に抜けないもので、休憩の時間になったら自然と喫ってた。
 あんまり本数増やすとステージに影響するからほどほどにして、今日もちゃんと自分に求められている仕事をこなして、ステージが終わりシャワーを浴びて着替えてから「お疲れ」とお互いに言うわけでもない空気の中(これは俺らのチームに限らないけど)、自然と解散。携帯に彼女から来ていた「そろそろ着くから」というそっけないメッセージに胸が高鳴る。外に出て、いつものように彼女の姿を探して、見つからず、少し待って、近づいてくる足音で「あ」って気づいて、彼女と目が合う。

「お疲れ様、……晶」

 その声を聞くだけで、あー今日頑張って良かった、って、思えるんだ。俺、単純だから。できる限りずーっとそばにい続けたいし、いつまででも独り占めしていたい。四六時中持ち歩いてる部屋の合鍵をポケットの中でいじりながら俺がそんなこと考えてるなんてこと、誰も気づきはしないんだろうけど。上手に隠してるし。だっていい性格してますから、俺。


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