「諸星…っ、今日という今日は許さんぞ」 怒りに震える握りこぶしも今は、いまひとつ迫力に欠ける。 「まあまあそう怖い顔するなよ、しゅ・う・こ・ちゃん!」 「き、きさまという奴は〜〜…っっ!!」 そう、なにせ一回りも二回りも小柄になった体では出せる力もたかが知れている。 手だって自分でいうのもなんだが、小さくて細くてやわくて、どう見ても女性のかよわいそれだ。 毎度のことながら諸星がラムさんの道具を悪用して起きた騒動のとばっちりでこんなことになってしまった。 「こら、スカートで駆けまわるとみっともないぞー!」 「だったら早く元に戻せ、馬鹿者!」 たしかに、スカートで走るのは非常に効率が悪かった。 逃げる諸星を追って走るもなかなか追いつかないし、普段ならなんとも思わない刀も片手で持つのがすこし辛い。 (つ、疲れる…) 少し走っただけなのに息が切れてしまう。 階段をのぼっていった諸星の姿が視界から消えるのを見ながらも走り出せずに、廊下の壁に寄りかかった。 長い髪が頬にかかって邪魔だ。空いた片手でさっと振り払うと、黒髪が一瞬丸みを帯びて膨らんで、背中に流れた。 その様子を前から歩いてきた見知らぬ男子生徒たちが顔を赤らめてやけにじろじろと見てきた。なにやら、肘でお互いをつつき合いながら「お前行ってこいよ」「よせ、お前がいけよ」などとごにょごにょ言っている。 (なんだ…?) そういえばさっきから、男子たちの視線がやけに熱を帯びているような… 「あ、あのう」 「ん?」 後ろから声がかかったので振り向くと、見知らぬ男子生徒が3人ほど立っていた。 「お体の調子でも悪いんですか?」 「え、いや」 「保健室、行かれます?」 「よかったら心配なので僕付き添います」 「…は?」 「いえ僕が」 「何言ってんだ、俺だろ!」 「おい、俺が最初に声かけたんだっ」 「……あの…」 「俺が最初にみっけたんだぞ!」 「うるさいっ俺は保健委員なんだっ」 「お前ら抜け駆けするんじゃねーよ!!」 「…………」 いつのまにかそのへんにいた男子が集まってすごい喧嘩になってしまった。 すでに誰も自分の話など聞いていない。 (……あほらしい。もうすぐチャイムも鳴るし教室に帰るか。) あの馬鹿には教室でみっちりと仕返しをしてやろう。 さりげなく輪を外れようと一歩踏み出したところ、ガッと腕を強い力で掴まれた。 「どこ行くんですか」 「え、いや、教室に…」 「僕がお送りしますよ!」 「いや俺が」 「だからお前ら抜け駆けすんなっていってんだろ!」 「お前こそしつこいぞ!!」 いつのまにか両腕を何人かに掴まれてぐいぐいと引っ張られている。 「痛っ…」 「ほら、痛がってるじゃないか! お前離せよ!」 「お前が離してやれ! 迷惑だろ!!」 更に強く引っ張られる。 う、腕が外れる……!! 痛みと喧騒でどうしていいかわからなくなってきたときだった。 「お前ら、女の子になんてことしとるんじゃっ!!」 「何だお前?」 「抜け駆けすんなっtぐわっ」 「うわっやめr」 「ほら、さっさと行くぞ」 「あっ…」 何がなんだか分からないうちに、人ごみのなかから延びてきた手に手を掴まれて雑踏を抜け出す。 そのまま手を握られて廊下を駆け出して階段をのぼる。 「も、もろぼしっ」 「まったく、女の子に手荒なまねをするとは男の風上にも置けん奴らだ」 「…なんでわざわざ戻って…」 「便所に行こーと思っただけじゃ!」 (お題:いつもと違う君だったから) |