十九 | ナノ




19



印刷できたプリントの山を委員会室のテーブルにどんと置いたところで、始業5分前のチャイムが鳴った。
今日は遅刻しなくて済みそうだ。(昼休みに先輩の仕事を手伝うと大体次の授業に遅刻させられるのだ。)

「製本は放課後でいいんですよね。じゃ失礼します」
「あー古泉さ」
「はい……?」

もうドアに手をかけたところだった。
振り向くと先輩がすぐ後ろにいて思わずのけぞった。

「な、んですか」
「来年の話だけど」

僕が少し開いたドアを先輩が脇から手を伸ばして開けた。
なんだ、先輩も出たかったからすぐ後ろにいたのか……?びっくりした。

「塾の勧誘でしたっけ?」
「ああ?なにそれ?」
「違うんですか」
「ちげーよ。委員会の勧誘」
「委員会?もう入ってますけど。先輩のところに」

意味が分からない。
やっぱり先輩、今日はいつにも増しておかしいのでは。

「来年は俺はいないけどね」
「来年…?」

さっき塾の話をされたとき。
(来年は先輩はいないのに、なんで聞くんですか?)と尋ねそうになって、やめた。
その話をしたくなかったから。
先輩が冬服なんて着てくるからだ、
急に、
あと半年でで卒業しちゃうんだ、なんて考えてしまった。

「来年の風紀委員長お前やってくれない」

先輩はいたって真面目な面持ちで僕をじっと見ていた。
伸びた前髪の隙間から黒い目が光って、
自分でも変なんだけど、さっき頬に触った先輩の手を見てしまう。
一瞬のことで温度も感じなかった。短くて丸い爪の先輩の手。

そういえば先輩に謝られたことなんて今までもあったかも。
重い物持ってくれたのも、鍵の開け閉めもコピーも全部自分でやってたのも、もしかしたらいつもそうだったかも。
思えば、廊下歩く時、いつも僕に端っこ歩かせるし、道を歩く時いつも先輩が車道側だったかも。

「なにをとつぜん……」

頭が忙しくて、やっと返事をする。
もうチャイムが鳴ってしまうのに足が少しも動かない。僕たちの脇を教員達が教室棟に行くのに足速に通り過ぎていく。

今日の先輩はおかしい気がしていたけどーーーーもしかしたら、変になっているのは僕のほう?





















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