十四 | ナノ






14

文化祭はつつがなく終わった。
体育祭で少しは懲りたのか、先輩も(あまり)馬鹿げたことはしなかった。
雀荘を開いたクラスに冷やかしにいって賭け麻雀でしこたますられたり、お化け屋敷に入った女の子の後をつけてこっぴどく振られて両頬を膨らませていたり、カップルを見つけると「文化祭をカップルで回るなどという軟派な奴は言語道断だ」などと言って別れさせようと悪戯を画策しては失敗してボコボコにされたり、まあ、そのくらい。
ちなみに委員での出し物などはなく、外部客用の自転車置き場の誘導を時間制で任されるくらいだった。
先輩とは一日目の一番最初に時間と場所が一緒になったけれど、朝からこんな学校の文化祭に来る外部者などそう多いわけでもなく、門前につっ立って他愛ない会話をしているうちに2時間は過ぎた。
「お前のクラス何やってんの」
「占いです」
「何占い」
「さあ。いくつかセリフが決まってて、占い師役の人が、気分でその中のどれかを言うだけの占いです」
「お前占い師やんの」
「やりますよ。全員回ります」
冷やかしにいくわーとでも言うかと思ったけれど、委員長はふうんと少し向こうを見てから、
「今ちょっと占ってみてよ」
と言った。
「え? 先輩をですか?」
「そー」
「無理ですよ。台本ないもん。覚えてないし」
「適当でいいよ」
「はあ……?」
先輩はいたって真顔だった。と、いうか、何を考えているか分からない、無表情だった。
夏の間半袖シャツだった委員長は、夏休みが明け皆が学ランを着るようになると、好んで校則に反発するように校内では脱いでシャツの上にジャージを羽織っていた。そのくたくたのジャージの両ポケットに手を突っ込んで、先輩はやっぱり何を考えてるのか分からない顔で「早く」と言った。
「えーと、うーん、先輩は、頑張ればいいことあると思います」
「何それ」ぷっと笑ってまた先を促した。「他には」
「うーん……勉強すれば成績が上がると思います。あともう少し素行がよくなれば、内申点も上がると思います。あとは……」
これは果たして占いと言えるのだろうか? と自分でしらけ始めたが、ひとつそれらしいことを思いついた。
「あ、あと、先輩は恋愛運はいいと思います」
「お。そう?」
先輩がはじめて食いつく反応をした。首を少し傾ぐと、伸びた前髪が目の間に一束落ちた。
「これは保証できますね」
なんといったって、こんなだめだめ男がしのぶ先輩のような上玉ゲットできたのだから、余程恋愛運に恵まれているとしかいいようがない。
そーかそーか、と言いながら髪を手ぐしで少し直した先輩が
「よし、んじゃあそこの可愛子ちゃん達にお茶でも――!!!!!」
と駆け出そうとしたので、そんなことだろうと思っていた自分の腕は獲物を狙う鷹のごとく俊敏にその腕を掴んで穏当に阻止した。「……仕・事・中・です!」

その後は唇を尖らしながらもまあまともに仕事をこなしていた先輩だったが、客が途切ると向こうに見えるベンチに座って休もうとするので、その度に首根っこ掴むようにして門の前に立たせた。
残り20分くらいになった頃だろうか。ぼけっと立っている先輩の横で渡り廊下の喧騒を眺めていたらふと思い立った。
「そういえば先輩って、女の子大好きなのに、しのぶ先輩には痴漢しませんよね」
「痴漢って、あのなあ」
「そのへんの女の子にはよく抱きついたりしようとしてるじゃないですか」
「スキンシップといえスキンシップと」
「どう見ても変態の痴漢です。」
先輩はまた両手をポケットに突っ込んだ視線で、門に背中を預けて苦笑した。
「むしろしのぶ先輩にこそその『スキンシップ』したほうがいいと思うんですけど」
言ってからなにやら変なことを言ってしまった気がしていたたまれなくなった。
が、先輩は少し考えるように黙って、文化祭のまだ盛り上がらない様子を見るともなしに見ながら、
「しのぶは、大事だからね」
と言った。
大事。先輩がそんな言葉を使うとは。
そして、先輩にそんな哲学を持ち合わせる心があったとは。
内心ひどく驚いて言葉が出なかった。
何を言ったものか考えてしまった。茶化すべきか、からかうべきか、むしろ、素直に感心すべきか?
しかしそんな逡巡をしているうちに、女の子の団体が自転車に乗ってやってきて、ぱっと姿勢を正した先輩はへらへらした笑みをはりつけて彼女らに向かっていった。
……とてもとても、彼女を「大事」にしている男には見えませんけど。

呆れ果てる。けどあの一言はきっと本当なのだろうと思った。
だってすごく、どきりとした。
先輩はいつもばかみたいに浮ついてふわふわしているからだろうか、つかみどころがないのだ。
単純で単細胞で頭すっからかんかと思うと、沈んだ面持ちで黙り込んだりする。
女の子なら誰でも大好きという態度でみんなに優しくするわりには、一番大事な彼女は適当にほったらかしたり、みんなの前では滅多に手にも触れようとしない。

――――そういえば、僕も先輩に変なことされたことないけど。
……まあ、当たり前か。
















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