十三 | ナノ






13

女心と秋の空、とはよく言ったもので。
秋の空はとても気まぐれだ。

うだるような暑さがやわらぎ、夕方の風が少し肌に心地よくなったかと思うと、朝晩は妙に冷え込むようになり、気がつけば釣瓶を落とすようにあっというまに日が暮れる秋の最中に投げ出されている。
そういえばいつの間にか蝉が鳴かなくなってるもんなあ。
入道雲も見なくなったし。

などとそぞろに考えていると、
「純ちゃんっ」
と後ろから肩を叩かれる。
「白井先輩。おはようございます」
「おっはよ。朝からアンニュイな顔しちゃってどしたの」
恋か〜いいね〜若いね〜と茶化しながら両腕を頭の後ろで組む先輩を「違いますよ」と一刀両断する。っていうか、鞄持ってないけどこの人一体何しに学校来てるんだろう。
「そういえば白井先輩はもう大学とか決めてるんですか?」
高校3年の夏休み明けといえば、尋常な精神の学生ならば受験に向けて一直線という時期のはずだ。
「え? 全然?」
……もはや驚くまい。
「しのぶ先輩なんてあんなに一生懸命勉強してるのに……」
「しのぶみたいなのはいい成績取るのが趣味なんだよ」
「……なわけないじゃないですか……」
勉強が楽しい人間なんているわけがないのだ。
だってその証拠に、しのぶ先輩はここのところ元気がない。
塾に通い始めたらしく委員会にもあまり顔を出さないし。(諸星先輩も同じところに通っているらしいけどなぜか彼はいつも委員会室にいる。そして行く度に何かと理由をつけて小間使いや雑用や書きものをさせられる。当人は大抵机に足を投げ出してあの座り心地の良さそうな椅子で週間漫画雑誌を読みふけっている。もはや驚くまい。)
元気を出してもらいたいのだが、話しかければ空元気で応対されるし、余計気を使わせている気になるのだ。
やっぱり先輩というものには、どこか壁を感じてしまう。一つの学年の違いがこうも影響するものだろうか。仲が良いとは思う、でも、気の置けない友人のようにとはなかなかいかない。知らないこともたくさんあるし。
「はあ、しのぶ先輩の周りにもう少し思慮深い人がいてくれれば……」
思わず心配をため息と一緒に口に出すと、白井先輩は少し驚いてから言った。
「しのぶにはあたるがいるから大丈夫だよ」
「そうですかあ……????」
全然大丈夫に思えないんだけどなあ。腕を組んでまたため息をつく。白井先輩が黙ったので気になって見上げたら、何やら意味ありげな視線が自分を見ていた。
「…………なんですか」
「しのぶとあたるが付き合ってるってのが不満?」
「えっ」
唐突な質問に面食らう。不満、かと言われるとなんだか違うと思う。
「いやっ、お互い同意の上なら何も問題ないと思うんですけど……どうもしのぶ先輩にはもっといい人がいるんじゃないかって……いやもちろんしのぶ先輩がいいならそれでいいと思うんですけど……もったいないなあと……先輩もそう思いませんか?」
「ん〜、俺は」
白井先輩は面白そうに自分を見る。
「しのぶのほうがあたるのこと好きなんだと思うけどね」
「……? そうですか……?」
聞き返した自分は見るからに怪訝な顔をしていただろう。ちょうど校門に差し掛かったところだった。「図書室にさ」白井先輩が独り言のように目を向けずに言った。
「毎年学年の最後にクラスごとで作る学級誌があるんだよ」
「なんですか。いきなり」
「去年の俺らのクラス知ってる?」
「……2年4組って言ってましたよね」
「うん。そう。4組」
そこでクラスメイトを見つけたらしい。声をかけられた白井先輩は「暇があったら見てみなよ。面白いから」と言い残してその男集団のほうに寄っていってしまった。
そのまま先輩が校舎を左に回って3年生の昇降口のほうへ旧友と談笑しながら遠ざかっていくのをぽかんと立ち尽くして見てしまう。
「学級誌ぃ……?」
一体何だって言うんだろう。意味深長だ。
白井先輩ってやっぱよく分かんない。





















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