十二 | ナノ






12

『と、いうわけで、優勝クラスへの費用増などという、崇高なオンリーワン精神を無下にする個人の努力に序列をつけるような愚かな報酬も今年は存在しない! 今日は夏の日の思い出を華やかに一瞬美しく咲いて散る花火の残像と共に焼き付け、有終の美を飾らんとしよう。異存はあるまい?!?!?!?』
『あ、あるに決まってんだろ!!!!!!!!』
『アホか!!!!!!!!!????????????????』
『金返せ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
『うちのクラス1位だったはずなのにどーーーしてくれんだよ!!!!!!!!』

もはや暴動である。
止めようと動き出した教師陣を、白井先輩が「いますぐ火付けるぞ!!」と犯罪者ばりのセリフで牽制した。いつの間にか前に来ていたラムさんも「ラム、邪魔者を排除してくれ」と委員長に言われれば「おっけーだっちゃ!」と簡単に加担してしまっている。
委員長はまわりに詰め寄りわめきたてる群衆に壇上で両耳を塞いで聞こえないといった顔をしてから、

「風情を解さんやつらめ。まあいい、花火の美しさを目の当たりにすれば下賤な民のうるさい口も静まろー。コースケ、着火だ」
「おっけー」
「ちょ、ちょっとちょっと委員長っ」

朝礼台を降りた委員長に駆け寄る。

「なにやってんですかっいくら馬鹿とはいえここまでばかなことするとは思ってなかったよ早く――」
「まーまー、お前も楽しめよ」

白井先輩が大きな筒の後ろにしゃがみこんだ。委員長がさりげなく、僕を誘導するようにそこから遠のいた場所に歩きながら言う。

「花火っていつも夜じゃん。昼間に見てみたかったんだよね」
「で、でも、委員長、」
『離れろーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

準備の完了したらしい白井先輩が大声で叫んだ声に、言葉はかき消された。
前列に並んでいた委員会の生徒達はグラウンドに散るように逃げてゆき、朝礼台に詰め寄っていた生徒達も校庭のできる限り端のほうへ逃げ惑った。
しかしみんな、もうここまで来たらという心境なのか、どこか楽しみにしているようにその黒い円筒と空を交互に見つめている。

『いくぞーーーーーー3、2、1・・・』
「い、いいんちょ……」

カウントダウンに気が逸る。冷や汗をかいている。となりの委員長の、腕を気付かずに握ろうとしていた。

「うるさいな」
「委員長っ、花火って――――」

ドオン。
中型の筒にしては、想定以上に大きな音だった。距離が近すぎたせいだろうか。心臓に鉛玉が落ちるような感覚を覚える。

『……』
「……」

その場にいた全員固唾を呑んで空を見上げた。
空に神様がおわしますのならば、さぞかしおどろいたことだろう。
轟音の余韻が過ぎ去るまで、ゆうに3秒は、1000以上の瞳が動かずに空へを視線を注いだのだから。

「…………花火って、昼間じゃ、明るくて見えない、んじゃ……」

青い空はどこまでも眩しく澄み渡っている。よおく目を凝らすと、燃え尽きたあとの煙が、雲のあいだを漂っている。

「……。」

涼しい笑みを貼り付けた委員長の空を見上げる横顔には、青筋が。
そして次の瞬間には、打ち上げ花火の音に劣らない、絶叫にすら近い、群衆の憤怒が委員長個人へと向けて浴びせかけられた。
一目散に駆け出してきたのは教師陣だ。
正直、地獄の鬼だってこんな恐ろしい顔はしていないだろうという形相で砂埃を立ててこちらに向かってきた。

「うわっヤベッ。逃げんぞ」
「はっ? え?」

突然手首を掴まれて、そのまま校舎の裏の方へ駆け出す先輩につられて走り出した。

「ちょ……委員長っ、ぼく逃げる必要ないんですけどっ!!!!!!」
「ばかもん。連帯責任っつー言葉を知らんのか?!?!?!?!?」
「知ってます、もちろん、けど、この場合適用されません!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

抗議しながらも、なぜだか手を振り払えなくて、そのまま一緒になって逃げてしまった。

「ダーリンのばか〜。昼間に花火見えるわけないっちゃ〜」
ファンシーな電子音を纏ってラムさんが斜め上空から私たちに追いついた。
「夜に光って見える星は昼間見えないっちゃ?」
「うるさいっ、そういう固定観念にとらわれるから人間は不自由なのだ!!!!」
「固定観念っていうか、単なる事実ですっ」
「うるさいっつーの!」

諸星先輩に走りながらこつりと頭を殴られる。全然痛くない。

「ラム、あいつら電撃でのしといてよ」
「え〜あんなに大勢無理っちゃよ」
「……明日映画のチケット2枚あるんだ。ラム」
「頑張るっちゃ!!

ラムさんが喜々として後方へ飛んでいった。すぐに阿鼻叫喚が聞こえてくる。

「最低ですね……委員長」
「なにが?」

屈託ない顔で笑いながらしれっと言って、委員長は裏門の横の駐輪場の近くで足を止めた。
「疲れた……」
ただでさえくたびれているのだ。すぐに息が上がる。
なんだってこんな目に合っているんだろう、自分にやましいことは一つもないのに、なんだって全校生徒に加え学校中の全教師に追いかけられるような真似…………この優等生の僕が!
不満は尽きない。
なのにどうして、文句を言う気にならないくらい、胸が晴れている。
何をしでかすか分からない、とんでもない変な先輩だけど、なんでだか、一緒にいると、楽しい。
そうだ、ぼくは、こんな異常事態をなぜだかすごく、楽しいと思っているのだ。

「さすがラムだな。あいつはこっちが手綱をしっかり握ってりゃ有能なんだが」
まーたこの常識はずれが人として最低なことを言っている……と思っていると、
「おい!!!諸星がいたぞ!!」
と背後で大きな声がした。

「ったく休む間もねーなっ、おい、お前二人乗りできる!?」
「え? できますけど」

度々載せてくれる藤波先輩のおかげで後ろに乗るのはすっかりお手のものだった。

「よっしゃ。ん、乗れ!!!!」

先輩が駐輪場の端のオレンジ色の少しぼろい自転車にまたがって後ろを親指で指した。

「え? それ誰のですか?」
「知らん、この学校の誰かの!」
「は?!?!」
「はやくのれってほら!!!!!!!」

背後からまた数多の敵の足音がひしめき近づいてきている。

「…………もう……!!」

この状況じゃ乗らざるを得ないではないか。
飛び乗った瞬間に走り出し、校舎の角を曲がってきた追手を尻目に油が足りずキイキイ鳴る自転車は校門を飛び出した。
体育祭をぶっ壊し、いまだ授業時間内にもかかわらず校外へ逃げ出し、あまつさえ、軽車両二人乗りなんて法律違反……優等生の僕がなんだってこんな目に……!

楽しいなんて、やっぱり、前言撤回だ!






















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