3 「じゅ、ん、いち、ろー」 「……何だよきもちわるい」 「なーなー俺さー、この前シャー芯あげたじゃん?」 「俺二ヶ月前にボールペン貸したよね?」 胡散臭い笑顔を浮かべて机に群がってくるのは、品行方正とは言い難いクラスメイト達。時期は7月。……見え透いている。 「……ノートなら貸さない。」 机の中の教科書を仕舞った鞄を持って立ち上がると、わらわらと後ろを付いてくる。出たところにいた女子の団体に純一郎くんバイバイ、と言われ手を振りかえす。 「純ちゃん! 待ってって」 「委員会なんだよ」 「シャー芯100本あげるからっ」 「いや、持ってるし…」 「一生のお願い!」 「いったい何生目だよおまえ」 この学校の気に食わないところはまあ、きりがないほどあるのだが、その一つがテストの成績上位者張り出し制度だ。いまどきこんなことが平凡な公立校で行われているとは思わなかった。 こんな面倒な羽目になっているのは、数学のテストで学年唯一100点を取ってしまったそのせいだ。 「じゅんいちろ〜」 「俺ら留年かかってんだけど〜まじで〜」 「普段自分でノート取らないのが悪いんだろ……」 「よーー小泉!」 「ん…?――――いでっ!!!」 少し遠いところから呼ばれて振り返ろうとしたら、その途中で頭を盛大に叩かれて首が飛びそうになる。 「モテるなーおまえ」 「いっ…てーよバカ委員長っ!」 「委員会はじまるぞー」 「あ、今……っていうか委員長こそなんでこんなとこ――――」 続く言葉を聞こうともせずそのままの足で前に駆けていってしまう、その先は委員会の教室とは完全に逆方向だった。 「……?」 状況を理解できずそれを見届けていると、クラスメイト達のひとりが「しのぶ先輩だ」とつぶやいた。嫌な予感しか、しない。後ろを見てみると後ろからすごい勢いで走ってくる彼女が見える。 「しのぶ先輩……あの今日って委員会じゃ……」 「小泉くん。ごきげんよう。あたるくん見なかったかしら?」 息があがったまま多分無理やり笑顔を作って優しい口調で喋りかけてくるしのぶ先輩、正直超怖い。 「あ、えと」 「諸星先輩ならさっき向こうに走って逃げてましたよー」 「わっ、ばか……!」 彼の消えていった先を指さしながら言った一際背の高い柔道部のクラスメイトを、睨み付けたがもう遅かった。 「……そう、ありがとう!」 しのぶ先輩は怒りの炎をもう隠そうとせず、鬼のような速さで向こうへ駆けていった。 「……もーっお前なんで言っちゃうんだよー! これで今日も委員会まともにできないんだからなー!」 「だってしのぶ先輩可愛いもん」 「やっぱ諸星先輩、しのぶ先輩から逃げてたんだな」 「風紀委員長なのに廊下走ってるし」 「なんであんな男と付き合ってんだろーなー」 「本当もったいないな」 「もったいない」 ……まあ、その意見には概ね同意するけど……。 「……帰りたい……」 「帰れば?」 「純一郎書記なんでしょ。委員長も副委員長もいなけりゃお前いないとやばいんじゃないの」 「え、書記なの? 転校生なのに」 「こいつ諸星先輩のおもちゃだからな〜」 「おっ、おもちゃってなんだよ!!」 「な。」 「うん。」 「お前らなあっ」 「だって結局、委員会行くんでしょ。」 「…………むむむ」 そうなのだ。ここでサボれないから、委員長のオモチャになってしまうのだ…(分かっているけど!) |