▼ 10.進む道、刻む道
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──森の仲間が、みんな残さず食べたから、あなたは、器から抜け出した命、小さな小さな塊。
──あなたは脱け殻ではなくて、殻から脱け出してしまった、中身そのものよ。
──脱け殻は、じゃあ、『魂』の器なの?
──少し、違うわね。
少しね。ただ『あなたはあなた』で、『わたしは私』その境目がなくなったとき、私達は、《誰》でも無くなるの。
誰でもない器は、ただの脱け殻。中身の無い入れ物。それは、ほとんど同じだもの。私達と。こんな、姿のない、ただの囁きにすぎない私達と。
無害で、無意味。
──ちがう。
本当は、みんな、眠ってる。きっと。
──そうかしら。
だって、見てごらん。彼らは安心しているよ。幸せに浸っているよ。
みんなと同じ。それが、幸せ。
──ちがう。違うから、違うから……、同じが、嬉しいんだよ。
──違うから、拒絶が生まれるのよ。今のあなたの姿のように。
──ねえ、この『器』は?この体は? この姿は?
ぼくは、ぼくなのかな。
最近、よく、わからないんだ。
眠っていないのに。
眠っているみたい。
──……あなたは、何?
あなたは、誰?
あなたを定義するのは?
──ぼくは。ぼくは。
──その姿があなた?
その声が、あなた?
その言葉かあなた?
──ぼくは……
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