▼ 10.進む道、刻む道
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ドゥロロの体は少しずつ動かなくなってきていた。辛うじて、まだ目や口は動くが、手足はこわばり、滑らかに歩くことが出来ない。
「まだ、半分の『歌』を、見つけていないのに──」
呟いて、悲しくなった。まだ、人間であるうちにやりたいことが残っている。なのに、体はもう、木に、なり始めていた。
指先の方は、すでにほとんど、枝のようになっている。
ぱさ、と剥がれ落ちた体の破片から、ひとつ、枝が浮き出てくるのを見下ろし、泣きそうになって──ふと、フレネザ、と名付けられた少女を思い出す。誰が付けたのだろう。あの『院』の誰かだろうか。
《彼女》は、もともと、あの体で長く生きることは出来なかった。仕方がないことだ。『声』を発するには、その複雑な振動を作り出すには、あの体では軋み過ぎて、適しておらず、むしろあの事件からの数十年、よく永らえてくれたものであると、ドゥロロは思った。
彼女は、セイが拘るところの、『生きて』いた間、何かをずっと、伝えようとしていたように思える。
セイに。彼に、ずっとなにかを伝えたがった。結果として壊れてしまったけれど。それは、なんだったのだろう。
もしかしたら──……
(いや、まさかね)
なんとか力を振り絞り、森へと向かう。森の木々の力が、弱まっているのを感じる。
もうそろそろ、フォルグネーレは、終わりを向かえるのだろう。
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