森と君と | ナノ
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 10.進む道、刻む道


 見境なく栄養を採り続けるうちに、蓄え過ぎた森は、そのうち、人間そのものさえをも植物に取り込むことが出来る、と考えます。
 森の木たちは誘い込んだ人々の肉を食らうと、代わりの『殻』で人々を作り、帰しました。
そうして少しずつ、森には生命が増え、活気が戻っていきました。
やがて人々は森を恐れ、かつてのように再び、近づかなくなっていきます。
だけどそれも、時が経てば、どうなるでしょう。


 人々の多くは、本当に失ったものに気付きません。日常に紛れた『脱け殻』を、いくつの人が見つけられたでしょう?


──そんなある日。
獣種が、再び生まれ始めました。滅びてしまったはずの獣のような姿は──多くの人に、忌まわしい災厄を思い出させました。
それが、すべての始まりで、ほんの断片。
そのお話は、またいつか。

     □

「セイ……誰だ? それに、ここに──少女が居た気がしたのだが…………」

「きっと夢を見ていたんですよ、先生。大丈夫ですか? このところ、ずっと研究ばかりでしたから──」
「研究……何のだ?」

「このベッド、一旦片付けていいですか? ──あら。昔ここに居た方の物かしら……可愛いお花の髪飾りね」

     □


少女の声がする。
少年の声がする。

朝の光が柔らかく降り注ぐ頃。その森の奥深く──緑に囲まれた、穏やかな場所で、ある少女が、少年に囁くように言った。


「──人は、人でしか無いもの。ねぇ、セイ?」

セイ、と呼ばれた少年は、少女の顔から目を逸らして頷く。
その首には、小さなペンダントがあった。腕にいつも巻いていた紐と、種の殻の、大丈夫そうな部分に少しだけ穴を開けたものだ。

「そう。ぼくらは、ぼくらでしか、ないよね──他の何にもなれないし、限られたなにかには、なれる」


 少女は、うふふ、と儚く笑い、栗色の髪を風に靡かせる。そして、明るく言った。

「あのね──」

その言葉に、セイは驚いた。けれど、また、頷いた。彼女はそれを見届けると、ふわりと姿を消す。どこからか花びらが、小さく舞い散っていた。


 幻が居なくなっても、枯れ始めた木の根元に、少年はただ立ち尽くす。

──どうやら、まだ生きているらしい。
身体中が痛かった。心も、痛いのかもしれなかった。だけど、何かがとても、温かい気がした。

 胸元にある、堅い種をそっと握って、呟いてみる。

「──待ってる。ずっと、ここで」

その言葉は、小さく、けれど確かに、その場所に響いた。


--完--

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