昔から歌うことが大好きだった。
大声で力一杯自分の好きな歌を歌って誰かを喜ばせることがとても心地よかった。
いい声だねって言ってもらえることがすごく嬉しかった。
だから将来は歌を歌って人を楽しませる仕事をしようと思っていたのに。
あの日、私の未来は真っ暗になってしまった。
真っ白な空間で目覚めた私を待っていたのは絶望だった。
母親を早くに亡くした私は幼い頃から父と二人暮らしで、兄弟がいない私にとっては父はとても大切な存在だった。
明るくて優しい父。
『舞白は本当に歌が好きなんだね』
いつも歌っていた私に笑いながらそう言ってくれた。
綺麗な歌声だと、そう褒めてくれた。
けれど、そんな幸せは脆くも崩れ去り。
私は一人ぼっちになってしまった。
父が、交通事故で死んでしまったのだ。
それは私がまだ小学校5年生の時で。
幼い私を誰が引き取るのか、身内の間で揉めていた。
そして親戚に引き取られることとなり、肩身の狭い思いをすることとなった。
親戚の家に引き取られた後は、周りから可哀想だと哀れだと言われ続け。
気が付けば好きだった歌をいつの間にか歌わなくなっていた。
中学校に上がって小さな変化があった。
すごく気の合う友達ができ、私はその子の為に歌うようになった。
私の歌声を好きだと言ってくれて。
それが嬉しくて私は歌った。
けれど、神様はそんな幸せすら私から奪っていった。
『私、あんたのこと最初から友達だなんて思ってなかったから』
元々虐められていた私に彼女が放った一言。
虐めの元凶は彼女だと、そう告げられた。
今でも忘れられない。
あの笑みが。
私は一体誰を信用して生きて行けばいいのか。
それすらも分からなくなってしまった。
どこにも居場所なんてない。
そう思ってしまった私は。
あの日。
校舎の屋上から。
この世界から逃げるように。
身を投げた。
激痛と共に目を開けた先には真っ白な空間。
運悪く奇跡的に助かってしまったのだと、親戚のおばさんに言われ涙が出た。
涙は出るのになぜか声は出なくて。
何度も何度も歌を歌おうとしたけれど。
私の口からは、あの声は聞こえてこなかった。
どうやら神様はどこまでも私を不幸にしたいらしい。
生きる術を失った私のそれからの生活は抜け殻同然。
遠縁のおじさんとおばさんに引き取られて、中学校最後の1年は東京で過ごすこととなった。
受験が迫ったある時、進路先なんて何も考えていなかった私におじさんは箱根学園を勧め。
寮生活をしたらどうだと言ってくれた。
そうして4月、真新しい制服に身を包んだ私は。
箱根学園の門をくぐった。
意地悪な神様