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すがすがしい晴天が広がり、朝特有の澄んだ空気が辺りを包む。


「やあやあおはよう! 今日も良い朝だねー」

「おはようございます、半兵衛様」


城内の廊下ですれ違い様に挨拶を交わした途端に、顔を半兵衛から逸らす椿。
手で口元を覆っているが、強張った表情から、あくびを堪えているのがわかる。

「椿、眠そうだね。どうかした?」

半兵衛に言い当てられ、椿は申し訳ございません、と恥ずかしそうに顔を上げた。


「昨晩、なかなか寝付けなくて」

「えぇーっ、寝てないの? それじゃあ頭も働かないよ」

「そうですね。ついボーっとしてしまうので、気を引き締めないと」

「んー。それも大事だけどさ、あんまり気負いすぎると疲れちゃうよ」

顎に手を当て、しばらく考えるような仕草をした半兵衛。そして、何かを閃いたのか両手を叩き合わせた。

「俺、良いこと思いついちゃった!」


「えっ、良いことってなんですか?」

「今から椿に昼寝の極意を教えて進ぜようー!」

指先をまっすぐ椿に向け、得意気な笑みを浮かべる半兵衛に、椿は不思議そうに目を見開く。「昼寝の、極意?」

「そう! ほら早くー。善は急げって言うしね」

半ば強引に腕を引かれ、たどり着いたのは大広間と庭の境目に設けられた板敷き状の通路……縁側だった。

太陽に照らされ、床が温まっているのがわかる。かといってそれが暑いわけでもなく、涼しい風も吹いていて、昼寝には最適、といったところだろうか。

「縁側、ですか?」

「あれ、不満だった? 縁側で寝ると気持ち良いよー」

「てっきりいつもの屋根かと思いました」

「うん、俺的には屋根の上もベストなんだけどね。あそこは初心者には少し厳しいかなあ」

「しょ、初心者とかあるんですね」


確かに、落ちれば大変どころでは済まされないだろう。あの場所から落ちる者がいるのかどうかは別だが。

半兵衛はその場に座り込み、自分の隣をぽんぽんと軽く叩いた。


「まあとにかく寝てみなよ」


と言われても、立場を考えると、半兵衛の隣に寝転がるのには抵抗があった。

「え、えーっと。でも私、朝から寝るというわけにもいかないので」

「いいのいいの、余計なことはなーんにも考えなくて」

「そう言われましても……」


困り果てる椿に、半兵衛は大きく息を吐いた。

「……椿、いい? 効率良ーく働くためには、程よーい睡眠は必須なんだよ。だから、ほら」

「は、はい。では……失礼します」


これ以上断ることもできず、椿は言われたとおり半兵衛の隣に静かに横たわり、目を閉じる。

程よい日差しと風は心地良いが、何より顔を覗き込んでいる半兵衛の存在が気になった。


「どう? 眠くなってきた?」

さほど時間も経たないうちにかけられた言葉に、椿は遠慮がちに起き上がる。

「いえ、あまり。見られてると思うと余計に落ち着かないです……」

「えー、せっかく椿の寝顔が見れると思ったのにー」


晴れ晴れとした青い空の下。
つまらなそうに口を尖らせる半兵衛にも眠気が襲ったのか、小さなあくびをこぼした。



「なんだか俺の方が眠くなってきちゃったよ……」

「では、寝ますか?」

思わずうなずきそうになり、半兵衛は眠気から逃れるように首を振った。


「いやあ、椿が寝てないのに俺だけ寝るっていうのもね……」

「大丈夫ですよ。陽に当たっていたら眠気も覚めましたし」

「それって普通逆じゃない?」

「そうですか?」


そもそも、昼寝をしない椿にとっては明るいうちに寝るということ自体に違和感を覚えるのかもしれない。

何度目かのあくびをしながら、大きく腕を伸ばす半兵衛。


「……じゃあ、お言葉に甘えて寝ちゃおうかなあ」

「はい。あ、良かったらどうぞ」

笑顔で膝を示す椿に、半兵衛の表情が曇った。


「……ねぇ、一つ言っていい?」


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