(2/2) 「なんですか?」 「そりゃあ俺は少しは若く見えるかもしれないけど、これでも官兵衛殿よりー」 「年上、なんですよね。わかってますよ」 言葉を遮って答える椿に、わかってるならいいや、と半兵衛に明るい表情が戻った。子供扱いされるのは嫌いらしい。 「じゃっ、ちょーっと膝借りるよー?」 「はい」 半兵衛は椿の膝に頭を乗せ、ゆっくりと瞼を閉じていく。 「……やっぱり女の子の膝って違うよね」 「そうですか?」 「うん。ふかふかして気持ち良い……」 感嘆の声をあげる半兵衛の髪が、風になびいてさらさらと揺れる。 椿は思わずその髪を一束すくい上げた。 「半兵衛様、髪柔らかいんですね」 「ちょっと椿、くすぐったいよー」 身をよじる半兵衛に、椿は名残惜しそうに指を離した。 「ごめんなさい、つい」 柔らかな日差しが二人を包むように照らす。 「……ねぇ」 「はい?」 半兵衛は、目を瞑ったまま囁くように言葉を紡ぐ。 「こういうのってさ、俺だからしてるんだよね?」 「え? ……まあ、官兵衛様にはこんなことできないですよね」 半兵衛とは対照的なもう一人の軍師、黒田官兵衛に膝枕をしている状況を思い浮かべた椿は、楽しそうに笑った。 「そういう意味じゃないってー」 半兵衛は椿の顔を見上げて抗議するが、くすくすと笑っている椿には、先の言葉の意味など到底理解できそうにない。 諦めた半兵衛は、再び目を閉じる。 「まあいいや。少し寝るね……おやすみ」 「はい。おやすみなさい」 半兵衛が眠りに落ちてから半刻も経たないうちに、官兵衛が縁側を通りがかった。 椿が半兵衛を膝枕。 その異様な光景を、官兵衛は訝しげに見つめる。 「何をしている?」 「あ、官兵衛様。おはようございます」 官兵衛の視線は、笑顔で会釈をする椿のすぐ下……半兵衛に向けられる。 「……朝から椿の膝で昼寝、か。呑気なものだな」 「……とか言っちゃって。本当は羨ましいんでしょー? 官兵衛殿」 ぐっすり眠っていたかのように見えた半兵衛は、意外にも官兵衛の言葉に対してすぐに反応を示した。 「半兵衛様、起きてたんですか?」 「うん。せーっかく最高の寝心地だったのに、官兵衛殿がうるさいから目が覚めちゃったよ」 「くだらぬことを。目が覚めたのならば早々に起き上がったらどうだ」 「ねえ椿、官兵衛殿羨ましくてしょうがないんだって。でもここは俺専用だから貸せないんだー。ごめんね官兵衛殿!」 寝起きだというのに衰えることのない饒舌ぶりに、官兵衛は目を細める。 「呆れて話にもならん」 大きなあくびをしながら起き上がった半兵衛と、それを睨むようにじっと見据える官兵衛。 そんな二人のやりとりを見ながら、椿は微笑んだ。 「お二人は本当に仲が良いのですね」 「そう? 仲良く見える?」 「はい」 「……だってさ、官兵衛殿! なんか照れちゃうねー」 嬉しそうに笑う半兵衛を、官兵衛が冷たく切り捨てる。 「……酷く心外だな」 「えー!? 酷いよー!」 両兵衛と呼ばれるだけあって、一見合わないように見られる二人の息はぴったりだ。 椿は、やっぱり仲良しだなぁ、なんて微笑ましく思いながら、しばらくその二人の会話を見守っていた。 2011/08/07 ← |