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「なんですか?」

「そりゃあ俺は少しは若く見えるかもしれないけど、これでも官兵衛殿よりー」

「年上、なんですよね。わかってますよ」


言葉を遮って答える椿に、わかってるならいいや、と半兵衛に明るい表情が戻った。子供扱いされるのは嫌いらしい。


「じゃっ、ちょーっと膝借りるよー?」

「はい」

半兵衛は椿の膝に頭を乗せ、ゆっくりと瞼を閉じていく。


「……やっぱり女の子の膝って違うよね」

「そうですか?」

「うん。ふかふかして気持ち良い……」


感嘆の声をあげる半兵衛の髪が、風になびいてさらさらと揺れる。
椿は思わずその髪を一束すくい上げた。


「半兵衛様、髪柔らかいんですね」

「ちょっと椿、くすぐったいよー」


身をよじる半兵衛に、椿は名残惜しそうに指を離した。

「ごめんなさい、つい」


柔らかな日差しが二人を包むように照らす。




「……ねぇ」

「はい?」

半兵衛は、目を瞑ったまま囁くように言葉を紡ぐ。


「こういうのってさ、俺だからしてるんだよね?」

「え? ……まあ、官兵衛様にはこんなことできないですよね」


半兵衛とは対照的なもう一人の軍師、黒田官兵衛に膝枕をしている状況を思い浮かべた椿は、楽しそうに笑った。


「そういう意味じゃないってー」

半兵衛は椿の顔を見上げて抗議するが、くすくすと笑っている椿には、先の言葉の意味など到底理解できそうにない。

諦めた半兵衛は、再び目を閉じる。


「まあいいや。少し寝るね……おやすみ」

「はい。おやすみなさい」




半兵衛が眠りに落ちてから半刻も経たないうちに、官兵衛が縁側を通りがかった。

椿が半兵衛を膝枕。
その異様な光景を、官兵衛は訝しげに見つめる。


「何をしている?」

「あ、官兵衛様。おはようございます」


官兵衛の視線は、笑顔で会釈をする椿のすぐ下……半兵衛に向けられる。


「……朝から椿の膝で昼寝、か。呑気なものだな」

「……とか言っちゃって。本当は羨ましいんでしょー? 官兵衛殿」

ぐっすり眠っていたかのように見えた半兵衛は、意外にも官兵衛の言葉に対してすぐに反応を示した。


「半兵衛様、起きてたんですか?」

「うん。せーっかく最高の寝心地だったのに、官兵衛殿がうるさいから目が覚めちゃったよ」

「くだらぬことを。目が覚めたのならば早々に起き上がったらどうだ」

「ねえ椿、官兵衛殿羨ましくてしょうがないんだって。でもここは俺専用だから貸せないんだー。ごめんね官兵衛殿!」


寝起きだというのに衰えることのない饒舌ぶりに、官兵衛は目を細める。

「呆れて話にもならん」


大きなあくびをしながら起き上がった半兵衛と、それを睨むようにじっと見据える官兵衛。

そんな二人のやりとりを見ながら、椿は微笑んだ。


「お二人は本当に仲が良いのですね」

「そう? 仲良く見える?」

「はい」

「……だってさ、官兵衛殿! なんか照れちゃうねー」


嬉しそうに笑う半兵衛を、官兵衛が冷たく切り捨てる。


「……酷く心外だな」

「えー!? 酷いよー!」


両兵衛と呼ばれるだけあって、一見合わないように見られる二人の息はぴったりだ。

椿は、やっぱり仲良しだなぁ、なんて微笑ましく思いながら、しばらくその二人の会話を見守っていた。


2011/08/07


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