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ねねと椿は、城の厨にて粥を作っていた。


「よし、こんなものかな。椿、ありがとうね、手伝ってもらっちゃって」

「いえ、とんでもないです。ほとんど見ているだけでしたし」

「健気な子だねぇ。椿が作ったって言ったら、三成もきっと喜ぶよ!」

そう言って可愛らしくぱちっと片目を閉じてみせるねねに、椿は柔らかい笑みを浮かべた。


三成は高熱を出し、自室に閉じこもっている。

「三成様……心配ですね。早く元気になってくださればいいのですけど」

「うん、普段からあまり弱音を吐かない子だからねぇ。もしかしたら、無理をさせていたのかも……」



ねねはそこまで言って、器の用意をする椿の表情が暗くなっていることに気がつく。


「大丈夫だよ。おいしいお粥をたくさん食べれば、体調なんてすぐ良くなるよ!」


だから元気だしなさい。明るい笑顔を浮かべるねねに、椿はうなずいた。

「はい。私が落ち込んでいては駄目ですよね。すみませんでした」

「こら椿、そこは謝るところじゃないでしょう?」

「あ、そうですね。ありがとうございます、おねね様!」

「うん、素直でいい子だね。良くできました!」

いい子いい子と頭を撫でられる。
まるで幼い子供のようだ。椿はくすりと笑った。





「――三成! 入るよー?」

食膳を片手に持ち、ねねは堂々と三成の部屋に入っていった。

気怠げに布団に横たわる三成の顔は赤く、息も荒い。


「……おねね様……」

「大丈夫、三成? すごい汗じゃない」

「ただの……風邪です。問題ないので、放っておいてください」

冷たく言い放つ三成の言葉は途切れ途切れで、いつもの迫力は感じられない。


「もう、またそんなこと言って! あたしにくらいわがまま言ったっていいんだから。ね? 何かしてほしいことない?」

「……なら、俺に構わないでいただきたい」

「お粥作ってきたんだけど、食べれそう? 食べればきっとすぐ良くなるよ!」

「何を根拠に……」



あーん、と口に運ばれた匙を軽く払い、三成はねねに背を向けた。

「三成、食べないと元気出ないよ?」

「いりません、風邪くらい寝てれば治ります。ですから出て行ってください」

「もうー……。あ、椿!」


水を張った桶と綿布を運んできた椿。その名前を聞くと、三成の肩がわずかに動いた。


「三成様、失礼いたします。……熱は大丈夫ですか?」

三成の背を覗き込み様子を伺う椿に、ねねは困ったように笑った。


「風邪だって。熱はまだ下がってないみたいなんだけど……。せっかく一緒に作ってくれたのにごめんね、椿。三成、お粥食べたくないみたいなの」

「そう、なんですか……」


眉を下げてうつむく椿の残念そうな声色に、三成は布団の中でみじろぐ。


「仕方ないね。その桶だけ置いておいて、また後で様子見にこようか」

「……そうですね。お粥は、どうしましょうか」

「清正と正則なら食べてくれるかな。呼んでみる?」

「はい!」


部屋を出ようとする二人に、三成は慌ててかすれた声を出した。

「……待て、椿」

「はい?」

椿とねねが振り向くと、三成はゆっくりと起き上がり、汗ばんだ額を拭うように髪をかきあげた。


「だ、駄目ですよ三成様。ちゃんと寝てなきゃ」


「……食べる」


「えっ? お粥ですか?」

「それ以外に何がある」

「そ、そうですよね」

匙を渡すが、力が入らないのか少々危うげだ。
それでも黙って手を動かす三成に、ねねは椿の肩を指でつついた。


「椿、食べさせてあげてくれる?」

「あ、はいっ。えっと……失礼します」


遠慮がちにお椀を取る椿に、三成は眉を寄せ首を振った。


「このくらい俺一人でできる」

「こんな状態のときに遠慮なんてしないでください」


少なめに匙に取って、少し冷まそうと息を吹きかける椿の様子を、三成がじっと見つめる。

「あ、ごめんなさい。嫌でした?」

「……そういう意味ではない」

目が合った途端に顔をそむける三成。その頬が赤いのは、もはや熱のせいか照れているのかわからない。


「はい、三成様。あーん」

椿が匙を三成の口元へ近づけると、今度は黙って口を開いた。


それを見て、ねねは満足そうに何度かうなずいた。

「あっと、あたしはそろそろ行かなきゃ。お前様がお腹空かせて待ってるしね。椿、三成頼んだよ!」

慌ただしく消えていったねねを見送り、椿は三成に視線を戻す。

もぐもぐと口を動かす動作に、椿の頬が緩んだ。


「おいしいですか?」

「まあまあだな」
「……ふふ」

「……なんだ、いきなり」

「いえ。三成様、こうしていると子供みたいで可愛いですね」


怒るべきなのか照れるべきなのか判断しづらく、三成は複雑な表情を浮かべる。


「……すみません。また失礼なことを」

ハッと自分の口を押さえる椿に、三成は小さく笑った。

「たまには……こういうのも悪くはない」





そんな二人の笑い声を聞きながら、部屋の外でたたずむ一つの影。


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