▼ 03

「んぅっ」
「はは、お前色白いからすぐ痕つくな」
「えっ、ちょっ、痕って……」
「もう1か所つけとこ。虫除けに」
「あっ、やめ、んあっ……!」

 少し横にもう1度、じゅうっと音を立てて皮膚を吸い上げられた感触に全身がぶるりと震えた。
 何なんだ一体、どうしたんだ俺の体は。童貞ってのは皆こうも刺激に弱いものなのか、それとも三崎先輩がよくは知らんがすごい『夜のテクニック』とやらを持っているのか、はたまたちょっと考えたくはないが先輩の言う通り俺が『感度良すぎ』なのか。
 などと纏まらない思考でぐるぐるしているうち、気づいたら胸元だけでなく足も三崎先輩の足によって拘束されていた。膝裏を引っ掛けられて動かなくなった両足をそのまま左右に開かれ、完全に三崎先輩の上に後ろ向きに座るような体勢になる。というかこれはあれだ、以前兄貴の部屋でこっそり見たエロ本にのってた、いわゆるM字開脚ってやつだ。

 そう自覚した途端くらっとめまいのようなものを感じたが、いかんせんもがこうにももがけないようがっちりと拘束されている。どうしようもなくなって思わずうなだれれば、制服の生地を押し上げ存在をこれでもかというほど主張している自分の下半身が目に入った。ますますくらくらしていると、あろうことか肩越しに三崎先輩も覗き込んできた。

「ほんっとどこもかしこもビンビンだな」
「っ、ちが、……」
「違わねえだろ。まだ触ってもないのにそんなに気持ちよかった?」
「……も、やだ……見ないでください……」
「へえ、見てほしくないの?」
「見ないで……」
「うーん、そっか分かった」

 と頷いたくせに、三崎先輩はしれっとそこに手を伸ばしてきた。ベルトを外す手つきがあまりに鮮やかだったので何も反応できず呆然と見守ってしまったのだが、ファスナーを下ろされ前を開けられた段階になってようやく我に返った。

「えっちょっと! 見ないって言ったじゃないですか!」
「うん、言ったね」
「じゃあ何で脱がせるんですか!」
「見ないけど触りたい」
「……!」

 反射的に思った。逃げないと、と。
 三崎先輩の言う通り、キスと乳首だけであれだけ醜態をさらしてしまった俺がそんな所を触られてしまったらどうなるかは火を見るより明らかだった。これだけみっともないところを見られておいて今更といえば今更かもしれないが、だからこそこれ以上の恥はさらしたくない。
 と思ったのだが。

「こーら、逃げんな」

 腹に力を入れ勢いよく拘束から逃れて立ち上がろうとした瞬間、俺の体は寸前で背後から伸びてきた両腕に素早く引き戻された。思わず振り返ると三崎先輩はにんまり笑い、それから片手でするりと俺の胸元をするりと撫でた。

「んあっ!」
「ちゃんと気持ち良くしてやるから大人しくしてろ」
「う、あっ……! んあ、だめ、待っ……!」
「はいはい、乳首気持ちいいなー?」

 子どもをあやすような口調のくせにその声は甘ったるくていやらしくて、摘まれてすりすりと先端を弄られている乳首からも、それから三崎先輩が喋る度に吐息でくすぐられる耳元からも、焦れったいような熱が這い上がってくる。それから、

「……ひ、あっ!」
「あーすごいな、どろっどろじゃん」
「っ、あ、ん!」

 ついに下着越しに握り込まれてしまったそこからも、とんでもないくらいの快感が襲いかかってきた。輪郭を確かめるように二三度ゆるゆると扱かれれば腰が勝手に跳ね、それから先端を指の腹でくるくると撫でられればとても俺のものとは思えないような声が口からこぼれる。目の前がちかちかして、未だ解放してもらえない乳首も下着の中でぬるぬるした感触に包まれているあれも、どこもかしこもじんじんと熱くなって、

「は、あっ、先輩もう無理、も、出る……!」

 思わず叫ぶと、ちゅうっと音を立てて唇の端に吸い付かれた。ぼんやりと半開きになった俺の唇を舌先でくすぐるように舐めながら、三崎先輩は楽しそうに笑い声をもらす。

「はは、さすがにはえーよ。まだ直接触ってもねえんだからもうちょっと我慢して」
「あ、あぁっ、ほんと無理っ、」
「なーに、そんな気持ちいいの? どっちが? 乳首? チンコ?」
「ん、あっ、どっちも、どっちも気持ちいいからっ、あっ……!」

 正直に言う。人生にこんなに気持ちいいことがあるとは思ってもみなかった。
 そりゃ確かに今まで他人とこういうことをする機会がなくていつも自分でするばかりだったにしても、いつかは誰かと付き合ってセックスをして、それはきっと自分で触るより多少は気持ちいいんだろうなとは思っていた。けれどこうして実際人に触られてみて、俺の想像は完全に甘すぎたことが分かった。最後までしているわけでもなし、ただ手で触られているだけなのに、自分で触るのとは全然違う。体のどこもかしかもとろりと溶けてしまいそうで、頭の中もなんだかぼんやりしてくる。

「あ、あっ、んあ、会っ、かいちょう……!」
「だーから会長は俺じゃなくて、ってそれはもういいか」

 不意に優しい顔で笑った三崎先輩は、今度は俺の目元に舌を這わせた。

「泣くほど気持ちいいのかよ。ほんっとにお前どんだけ俺を煽れば気が済むわけ?」
「んあっ、あ、あおってな……」
「あーもう本当、仕方ねえな。イきたい?」
「いく……いき、たい……っ」

 何も考えられないままひたすら頷くと、もう一度、優しい微笑みを向けられた。それにちょっと心拍数が上がったのは多分俺の勘違いというか、おそらくその場の雰囲気にのまれただけなのだろうとは思うがとにかく、先輩は目を細めて俺の頭をぐしゃっと撫で、それから、

「あ、あっ、ーーっ!」

 ラストスパートとばかりに上下に扱き上げられ、途端に頭の中が真っ白になった。最早タガが外れてしまったような俺の喘ぎ声は、食らいつくように仕掛けられたキスのせいで先輩の口内に吸い込まれていった。がくりと力が抜けた俺の体は、三崎先輩の両腕に抱きとめられた。服の上からではすらっとして見えるのに意外とたくましいらしい体にもたれかかって息を整えていたら、ぽんぽんと頭を撫でられた。その手つきがあまりにも優しすぎてうっかり泣きそうになったのはやっぱり多分雰囲気に流されてのことだとは思うが、全力疾走した後かってくらいにうるさく働いていた心臓の鼓動もだんだんとおさまっていく。

「つ、疲れた……」

 最後に長く息を吐いて呟くと、俺の後ろで三崎先輩は小さく吹き出した。

「体力ねーなあ。そんなんでちゃんと最後までヤれんのかよ」
「うるせー……できるし……」
「お、言ったな? じゃあこの際だし最後までしてやるよ」
「……え?」

 不穏な言葉に振り向くと、三崎先輩はなんというかすごく悪そうな顔で笑っていた。ひゅっと息をのむと同時、しかし幸か不幸か、室内に聞きなれた電子音が鳴り響いた。今まで何度も聞いたことのある音、三崎先輩の携帯の着信音だ。ポケットから携帯を取り出してちらりと画面を見た三崎先輩は、小さく舌打ちをし、そして俺の手を引き立ち上がった。つられて立ち上がるが、足の力がいまいち入らない。

「そろそろ帰ろっかな。堂島に呼ばれてんだよね」
「……アンタまさか副会長にも手出してんですか」
「バカちげーよ。単に貸したもん返してもらいにいくだけ」
「へえ」
「なに、やきもち?」
「は?」

 そんなわけはない。思わず睨んで、それからふと気がついた。

「えっあれ? ここに何か用事あったんじゃないんですか?」
「ん? いや別に?」
「え、じゃあ何しに来たんですか?」
「いや、だってさあ。面白い噂聞いたから確かめに?」
「噂って……あーあれ……」
「でもガセだったんだな。何でそんな噂が流れたんだろうな、童貞のお前に」
「うるっせーな! 早く帰ってください!」

 つながれたままだった手を払いのける。笑った三崎先輩は、流れるような手つきで俺の腰を引き寄せ、

「じゃあまたな、今度はこっち使おうな」
「な……っ!」

 なんともいやらしい手つきで俺の尻をつかんだ。指先がすいと俺の足の間をなぞり、背筋があわだつ。

「今度なんかねえよ!」

 振り払おうとしたが三崎先輩は寸前で体をよけ、そしてひらりと片手をあげて笑いながら去っていった。
ぱたんと扉が閉まれば、室内には静寂が戻ってきた。ずるずると座りこみながらついさっき自分の身に起きたことを思い返すと、全くため息しか出ない。うろたえすぎだし流されすぎだしろくに抵抗もできなかったし。

「あー……最悪……」

 でも何が一番最悪かって、下着の中の濡れた感触だった。時間が経って冷えてきたべちゃりとしたその感触は、正直もうアホかってほど気持ちが悪い。もう一つため息をつき、そして取り残された俺は思わずうなだれたのだった。

「俺がしたかったのはこんなキスじゃないのに……!」


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