▼ 横恋慕と大団円

とんでもなく眠いし腰は痛いしケツも痛いし、足はふらふらする。
昨夜途中からなにやら開眼してしまった辰巳は、初めての俺に対してエンジン全開フルパワーだった。
そのせいで泣きすぎたのか目の奥も痛いし、散々喘がされた……ごほん、まあとにかく喉も痛い。
そんなこんなで今日の俺の体はどこもかしこもぎしぎししている。

しかし覚束ない足元を踏ん張って隠しつつ翌朝ベッドを出た俺に、辰巳はお手製明太子スパを作ってくれた。
しかも昨夜、というか既に朝方寝る前に風呂に入れてくれたのを筆頭に、辰巳はずっとふにゃんふにゃんの笑顔で俺に甲斐甲斐しく世話をやいてくれていて、いつもは俺がそうする側だったけどされる側も意外と悪くないなあと思う。

そんな完全にほだされている俺に、眠そうな顔で自分の部屋から出てきた桜井くんは開口一番言った。

「あ、おはよ。結局早川くんがネコになったんだな」
「おは…えっ…!? な、何それ違うし! 俺が辰巳抱いたんだし!」
「ふは、そんな慌てなくていーって。早川くんの声丸聞こえだったし」
「嘘だ! 聞こえないって!」

広い共同スペースを挟んで個室は左右に別れてるし、多少壁も厚いから、部屋でにゃんにゃんしたって聞こえるはずはないのだ。ちなみに俺の同室者はもっちゃんだし、ケーゴが来てても何も聞こえないことからもそれは証明済み。それなのに、桜井くんは笑いながらとんでもないことを言った。

「うん、普通はそのはずなんだけどね。でも早川くんの声すげーでかかったもん」
「な……!」
「あの分じゃ隣にも聞こえてたんじゃないかなー」
「と、隣? 隣って誰?」
「え、陣だけど」
「ひええええ……!」

なんてこった!
そんなに大きくなかったよね?と小声で聞いてみても、辰巳は苦笑するばかり。
な、なんてこった…!

「ご、ごめん…」

信じられない失態に、頭がくらくらする。
ものすごい気まずさを覚えつつ謝ると、桜井くんは冷蔵庫の牛乳を豪快にパックから飲みながらいいよいいよ、と笑った。

「むしろいいもん聞かしてもらったわー」
「えっ?」
「…おい、桜井」
「だって早川くんすげぇかわいかったもん。やだやだまたイっちゃうよぉ辰巳ー!って。本当にタチだったの?」
「!!!!!」

あああ……俺って、俺って!
この世から今すぐおさらばしたい!



ちょっと怒った顔をした辰巳は、桜井くんを個室の中に追い返した。
ノックアウトされたままへろへろとスパの残りを食べていたら、辰巳の携帯に電話が来た。画面を見た時の難しい顔と話の内容及びもれ聞こえてくる声のトーンからすると、通話相手は凛ちゃんらしい。
呼び出されたからちょっと行ってくる、と席を立った辰巳を見上げて、俺も慌てて立ち上がった。

「俺も行くから」
「え、歩ける? 部屋で待ってろよ」
「あっ、歩けるし! つうかほら、あれじゃん。俺が辰巳を抱きましたー辰巳はもうネコちゃんだから諦めてくださいーって言わなきゃ」
「……やっぱりそれはちょっと。最終手段にとっとこう」
「えー! もう最終手段使うべき時でしょ!ケツ捧げたのにヤり逃げされるとかやだかんね、俺!」
「ケツってお前、いやヤり逃げとかしないから。ちゃんと貴史のこと好きだから。だから大人しく待ってろ、な?」
「えー! えー!」



絶対ついてくとダダをこねた俺に結局折れた辰巳は、部屋に凛ちゃんを呼んでくれた。立ち上がった俺の足が生まれたてのバンビみたいによろよろしてたことに気づいていたらしい。踏ん張ってたつもりだったんだけど。

しばらくして現れた凛ちゃんは、なぜかヨッシーを連れていた。俺は明け方に風呂入ったから髪が寝たまんまだし、ヨッシーもまだセットしてなかったのかぺたんとしてる髪をしてる。お互い指差して笑い合いながら、しかしなんでヨッシーがここに? と思わなくもなかったけど、とりあえず先制攻撃と思って俺は真っ先に喋り出した。

「凛ちゃん、俺辰巳とヤっちゃった。辰巳俺にメロメロでもうネコしかやりたくないって。だから悪いんだけど別れてくんないかな」

事実とは多少異なるが勝ち誇った顔をすると、しかし予想に反して凛ちゃんは平然とした顔でさらっと答えた。

「うん、辰巳くんのことはもういいから貴史にあげる。僕、和雄くんと付き合うことにしたから」
「え? そうなの?」

肩透かしを食らったようで、一瞬で肩の力が抜けた。まあそもそも気が多いうえに浮気してたっていう凛ちゃんのことだから突然気が変わったって不思議ではないと言えばないけど。でも、はて。

「っていうか和雄って誰?」

知らない名前に首を傾げると、その途端ヨッシーが両目をかっ開いた。

「えええ! 俺俺! タカ俺の名前知らねえの!?」
「なんだヨッシー……えええええ! 凛ちゃんヨッシーと付き合うの!?」

顔を見合わせて照れたように笑い合った凛ちゃんとヨッシーを凝視する俺の目はまさしく点になった。俺の冒頭の爆弾発言で小さくため息をついてた辰巳も同様、2人を見つめてぽかんとしてる。

「ど、どどどどうしたの急に、どういう展開?」

驚愕のあまり盛大にどもりながら確かめると、凛ちゃんはうふ、と可愛く笑ってヨッシーに寄りかかった。

「和雄くんねーほんとはずっと僕のこと好きだったんだって。昨日一晩かけて情熱的に口説かれちゃった」
「え、ずっと? っていつから?」
「うん、僕と貴史が付き合ってた時? 最初の頃にさあ、友達って言って和雄くん紹介されたことあったじゃない」
「えええ! まさかの横恋慕!」
「いやーははは。すまん、タカ」
「いやいいけどさあ…。うわあ…知らなかった……俺こそごめんねヨッシー」
「いやいや、タカは別に悪くないし」
「…うん、だよね」

えっじゃあ比呂くんは? とは思ったけども、さすがに空気読んで突っ込むのはやめた。幸せそうにイチャイチャする2人を見てたらなんかますます力抜けたし。

「あーじゃあまあ、一件落着ですかね…」
「…だな。じゃあ改めて言うけど。貴史、俺と付き合ってくれ」
「あ、はい。よろしく…」
「こちらこそよろしく」

こんなあっけなくていいのかなーと思いつつ辰巳と頭を下げ合っていると、凛ちゃんが「おめでとー」と拍手してくれた。
ヨッシーも身を乗りだしてきて、「やったなータカ!」と俺の背中をばしーんと叩く。背中っつーか、ちょっとずれてむしろ腰。つまり元々ズキズキしてたとこに思いっきり入ったわけで、

「いっ、てえええ!」
「まあ俺のおかげでもあるけど、っておい、タカ?」
「…大丈夫か貴史」
「あああ、ヤバい痛いしぬ……!」
「え、そんなに強かった!? ごめんタカあああ!」

涙目を隠しつつ膝をついて痛みに悶える俺、俺の腰をさすってくれる辰巳、あわあわとうろたえるヨッシー。
そして俺を見つめつつ、凛ちゃんは一人納得したように頷いた。

「ああ、やっぱり貴史が抱かれたんだ」
「え! タカ!? マジで!?」
「…えっ! 違うし! 俺がしたんだし!」
「おかしいと思ったんだよねえ。辰巳くんSっぽいし貴史どっちかっていうとMっぽいのに何で貴史がタチなんだろーって」
「はっ!? 俺Mじゃないって!」
「そもそも貴史に辰巳くんをメロメロにするテクはないし」
「なっ、酷い! 凛ちゃんひでえ! 気持ちいいって言ってくれたじゃんか!」
「うーん、まあフェラはね」
「フェラ"は"!? 何それ他は!?」
「うーん、というかまあ早いから」
「!!!」

なんつう…これ、なんつう攻撃。俺ってば凛ちゃんにとどめを刺されてしまったわけだね……。だけどこればっかりは、と必死で俺がタチなんですー! と言い募っていたら、辰巳の手で部屋に押し込まれていたはずの桜井くんが携帯片手に誰かと電話しながら現れた。

「――ああ、そうそう。いやだからAVじゃなくて早川くんだって。すげぇ辰巳辰巳言ってたじゃん。――うん、そう。いやー可愛かったよねえ。俺うっかり抜いちゃったもん。え、陣も? ハハハ、マジで?」
「桜井テメェ! 何やってんだ!」
「げっ! 辰巳に怒られた! ――ああはいはい、今から出るから。辰巳ー部活部活! はーい、んじゃ後でねー」

「…………」

おそるおそるヨッシーを見れば「あー…」と苦笑い、凛ちゃんに至っては満面の笑みで親指を立てられる。いや、いやいや、えええ……。

「さっ、桜井くんのバカ!」
「えっ、俺? え? 俺何かした? …うわ、何でそんな睨んでんの辰巳!」

空気の読めない桜井くんを恨みをこめて見上げながら俺は、次こそは絶対俺が辰巳を抱くと誓ったのだった。

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