▼ 作戦A

「タカって早漏なんだってー?」

翌日、朝一番から下ネタを言ってうひひと笑ったのはケーゴだった。爽やかな朝の始まりになんつうことを言うのと思いつつも、昨日のことを思い出して一日分の活力が一気に枯渇する。

「別に違うし! つーか何でその話知ってんの!?」
「えー、皆知ってるよ。I組の冴木は包茎、A組の早川は三擦り半」
「あ、タカが早漏って名前の通りじゃね?」
「早川だけに早いってか、ダハハ!」
「ダハハじゃねーし! 何その不名誉な噂! しかも尾ひれついてっし!」
「まあまあ。いいじゃん、冴木も無事に凛くんと別れられそうなんでしょ?」
「…いや、それがさー」

無遠慮にはやし立てるもっちゃんとケーゴの極悪カップルを宥めつつもヨッシーがフォローを入れてくれる。それはありがたいんだけどそのヨッシーも半笑い…っていうのはどうでもよくて。

あの後なんとなく解散の流れになって傷心のまま部活に行った俺は、案の定遅刻して部長に絞られて更に傷心になった。
しかもそれだけでは終わらず、部活後ヨッシーと別れて部屋に帰ると、扉の前で凛ちゃんが待っていたのだ。びくっとした俺に、泣きはらした目をした凛ちゃんは宣言した。

『僕辰巳くんとは絶対別れないから! 貴史と辰巳くんのこと全力で邪魔するからね!』

と。

「……というわけでHPが0になった俺なのでした」
「あーそれはそれは。ご愁傷様でした?」
「でもでも! 俺は一晩かけていいこと思いついたから!」
「貴史の思いつくようなことなんてろくでもないことのような気がするけど、まあいいや何?」

なんか聞き捨てならないけど、そこは聞き流すことにした。「ヨッシーは俺の親友だよね!?」と詰め寄って、ヨッシーが気圧されたように頷くのを確認してから話を切り出す。

「俺はねー、ヨッシーがマジで凛ちゃんと付き合っちゃえばいいと思うわけ」
「は? 何で俺!? 俺彼氏いるし!」
「浮気するやつなんか別れちゃいなよ」
「いやいや、冴木も現在進行形でタカと浮気してますけど?」
「アーアーアーアー、聞こえなーい。つうか凛ちゃんかわいーってヨッシーも言ってたじゃん」
「言ったけどさあ…えええ…うーん…まあいいか……」

自分で言っといてなんだけど、いいんかいそんな軽い感じで。



てなわけで昼休み、俺とヨッシーは教室の前側の入り口からこそこそとI組を覗きこんでいた。辰巳は真ん中あたりの列の後ろの方の席に座っていて、凛ちゃんががっちりへばりついている。

「目標視認しました! ヨッシー隊員出動してください!」
「……思ったんだけどさあ」
「なになに、何よどたん場で。ここにきて怖じ気づいたかヨッシー?」
「…うん、てか凛くん可愛いじゃんか。普通に考えて俺じゃ相手にされなくね?」
「そんなことねーよ。ヨッシーもなかなかイケてるってば」
「ありがとう…? …いや、だからそのタラシ笑顔やめろ」
「いやーん、俺に惚れちゃ辰巳くんに竹刀でぶった斬られちゃうよーん」
「……」
「いやマジな話、凛ちゃんおだてられると弱いからいけるって。可愛い可愛いって言ってりゃいーの」

ビシッと親指を立ててバチコーンとウインクを決めると、ヨッシーは「それもどうなの…」と呟きながらしぶしぶ立ち上がった。
ロボットみたいなギシギシした動きで右手と右足を一緒に出しながら歩いて行ったのち凛ちゃんの肩を叩くのを見届けてから、俺は後ろ側の入り口付近にこそこそと移動する。

「あ、あのさ…」
「あれ、吉田くん? どうしたの? …あ、もしかして貴史の差し金?」
「え、いや違う! 違くて」
「ふーん? どうしたの?」
「あーあのさ、俺凛くんのこと前から可愛いなって思ってて…、良かったら一緒に昼飯、とかどうかなって」
「えっ…」

窓からこっそり目だけ出して教室の中を覗き込み、凛ちゃんの視線がヨッシーに固定されたのを確かめる。と、戸惑いつつヨッシーを見ていた辰巳は、俺と目が合った途端納得したような顔をして静かに席を立った。
ちょっとひやひやしながら待っていたら、すぐに辰巳が後ろ側のドアから顔を出す。こっそり教室を抜け出すことに成功した辰巳の手を引っ張って、俺は素早くその場を駆け出した。フロアの端にあった階段を駆け下りて、ようやく一息つく。

「やったー! 脱走成功!」
「ふは、何かすげえ。あの吉田くん? ってやっぱ貴史の差し金だったの?」
「だよ! ヨッシー凛ちゃんのこと可愛いって言ってたからくっつけちゃえばいいやーと思って」
「あーなるほど」
「あ、でもまだ一応辰巳の彼氏なのに横恋慕だね、ごめんね! でもまーいっか、一緒に昼飯食お!」
「ああ、気にすんな。俺も貴史と一緒にいられて嬉しいし」
「…へへ」

へへへ、と笑い合った俺達は、さりげなく小指を繋ぎつつ一路食堂に向かったのだった。
時々すれ違う人達が振り返ったり俺達を見てひそひそ喋ってたり、たまに「あ、例の早い…」「あああれが…」なんて不穏な会話が聞こえてたりしたけど、うん、俺めげない。

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