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舐めたい話


体育祭が近づくにつれ、校内は徐々にお祭りムードが濃くなっていった。体育の授業やホームルームはそれ一色になり、休み時間や放課後もあちこちで準備や練習が進められていた。
俺はといえば部活や委員会に所属しているわけではないのでわりと蚊帳の外ではあったのだが、ある日応援団用の立て看板製作の仕事に割り振られた。主に美術部の人が仕切ってくれるようだが、手が足りないということで各クラス1人ずつ選出してほしいということのようだった。

ということで放課後に部室棟の一画に呼び出された俺を含む暇人達は、刷毛を片手に塗料と格闘する日々が始まった。
用意された大きな看板は5枚。なんでも組み分けは学年縦割りで2クラスずつ、計6クラスで1組、全部で5組ということらしい。
俺はD組なのでC組と合同で青組ということだったので、美術部の人によって書かれた下書きに合わせて背景に青い塗料を塗りたくっていた。

同じ看板を囲んでいるのは俺含め6人。2、3年は知らない人だったが、1年C組からは安田が来ていたので幸い話し相手には不自由しなかった。
体育祭は何の競技に出るという話をしたり、共通の友人である上野や小島の話をしたりした後、なんとなく流れで安田の彼氏の話になった。
相手については同室者ということしか知らなかったが、どうやら安田も安田でちょっと揉めているらしかった。小島にしろ上野にしろ、秋は揉める季節だったりするのだろうか。いやそんなはずはないか。

「なんかさ、束縛とまではいかないんだけど結構やきもち妬くタイプなんだよね」
「あーそうなんだ……やっぱ妬かれると嫌なもん?」
「まあかわいいんだけどさあ。でも何もやましいことないのに責められたり拗ねられたりが続くとちょっとしんどい時もあるというか」
「何もないのにやきもち妬くの?」
「何もというか、ちょっと告白されたりとかそういうの。でも別に相手と仲良くしたとかそういうわけでもないし、ましてや浮気してるわけでもないし」
「ふーん……」

やきもち云々は身に覚えのある話なので曖昧な返事になってしまうと、安田は困ったように眉を下げた。

「やっぱり俺が悪いのかな」
「あ、いや安田は悪くないと思うけど。ただちょっと耳が痛いというか」
「え? 大谷妬くタイプなの?」
「まあ、うーん、若干……」

本当は若干どころの話ではなかったがつい濁してしまった。が、安田は一転楽しそうな顔をした。

「かっこいいんだったよな、彼氏。やっぱモテる人なの?」
「うん、多分、まあ……」
「へえ、というか相手誰なの? いや待って大谷がやきもち妬く話も詳しく聞きたいな。どっちから掘り下げればいい?」
「どっちも掘り下げないでほしい」
「なんだよ、そろそろ腹わって話そうよ」
「いやいや、俺のことはいいから。安田の話の解決策を考えよう」
「俺の話なんかどうでもいいよ」
「どうでもよくはねーだろ」

なんて適当な話をしていたところ、不意に安田が「そういえばちょっと相談していい?」だなんて言い出した。今までは俺が色々聞いてばかりだったが、珍しく逆のパターンだった。
頷くと、安田はあたりを気にしてか声をひそめた。

「あのさあ、大谷フェラできる?」
「……ええと、それは上手いかどうかってこと?」
「いやそうじゃなくて、可能かどうかという意味で。というかしてる?」
「んー……」

何だこの質問。答えにくいことこのうえない。

「……つうかこれ何の相談?」
「俺さあ、どうしてもできないんだよね」
「彼氏に?」
「そう。だってさ、いくら好きな人のって言っても男のアレじゃん。普通に抵抗ない?」
「あー……彼氏はしてくれんの?」
「うん、だからそれもまた揉めるタネなんだよね。してほしいって言われるんだけどどうしても無理で、他の人はどうなのかなと思ってたんだけど大谷に彼氏できたんなら相談できるなと思って」
「ああ、なるほど」
「で、大谷どうなの? してる?」
「まあ、うん。するけど」

この話の流れで、むしろ喜んでしているとは言えなかった。
いやそもそもどんな流れだとしてもそんなことは言えるはずもなかったが。

「マジか、できんのか。嫌じゃないの?」
「嫌と思ったことはないけど」
「マジ? なんで?」
「何でだろう。好きだから……?」
「……」
「おい、無言になんなよ。恥ずかしいんだけど」
「いやごめん。でもそうだよな。もしかして俺、彼氏のことそんなに好きじゃないのかな」
「え? そういうことではないんじゃないの」
「でもさあ、じゃあ大谷彼氏以外にもできる?」
「絶対無理」
「でも彼氏のはできる? 好きだから?」
「まあ……」
「てことは俺ができないのはやっぱりそんなに好きじゃないってことなんじゃないか?」
「……」

思わず顔を見合わせてしまった。それから慌てて否定した。

「いや分かんないだろ。ただ俺がそうってだけで皆してないかもしれないし」
「えー……そうなのかな……」
「誰かに聞いてみる? 上野とか」
「ああ、でも別れたばっかだし傷えぐっちゃったら悪いな」
「そっか、じゃあ小島? あーでもなんか普通にしてそうだよな」
「そうなの?」
「いや知らないけど。でも元彼もいるって言ってたし慣れてそうイメージっつうか、やっぱ外部生の方が参考になるんじゃない?」
「確かにそうだな。大谷他に外部生の友達いる? 俺知り合い少ないんだよね」
「いや俺も……、あっ」

同意しかけたところで、突然ひらめいた。こういう相談にうってつけの人がいた。

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