向き合ってみて、初めて知ることがある。 少なくともサクラはそんな当たり前のことに今更気付いて、暫く屋敷の前に佇んでしまった。 この家に嫁いでからまともに潜ったことの門の横には、初めて目にする表札がぶら下がっていた。 彼の字(あざな)とその下に連なる己の名前。 まぎれもないサクラの三文字。 うちはを潜ることとずっと避けていたのはサクラ自身だった。 こんな些細な日常の変化さえも気付けぬほど、自分で一杯だったのだ。 感覚の鋭い指先でサクラはゆっくりとその文字を撫でた。 愛しい名だ。 そう思えるほどゆっくりと。 「サクラ」 夜道に独りじゃ危ないからと、らしくないことを言って送ってくれたサイがとうとうその動作を止めた。 「あ、ごめん」 我に返ってサクラは謝った。 「送ってくれてありがとう。もう此処までで大丈夫だから」 気恥ずかしさを誤魔化そうと、早口にじゃあね、と言ってサクラが右手を上げかけると、サイは首を横に振った。 「僕もちょっと用事があるんだ、サスケ君に」 彼の口からサスケの名が飛び出すとは思ってもみなかったので、多少の驚きはあったものの、相変わらずのサイの頬笑みがそれ以上追及することを拒んだ。 「とりあえず入ろう。サスケ君に会わなきゃ何も始まらないだろう」 サクラの肩に手を乗せて、くるっとその身体を向き直らせた彼は、ほぼ強引にうちはの大きな門を何の躊躇なく潜った。 「サスケ君、右手…」 言われてサスケは指差された右手を見やる。
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