Extraordinary
「さみ、」
「何言ってんの!クリスマスなんて冬獅郎の為にあるようなもんじゃない!」
「ちげーよ。」
クリスマスだからといって仕事が休みになるわけじゃないけど、少しくらい長い休憩だったら良いんじゃないの?という乱菊さんの言葉にのって、冬獅郎を無理やり外に連れ出した。留守番は乱菊さんに任せてある。(と言っても、誰かに誘われたらすぐにどこかに行っちゃうに決まってるけれど。)
さっきから寒い寒いと煩い冬獅郎にぎゅう、と抱き着いて歩けば、今度は歩きにくいから離れろって言われた。けれどそう簡単に離れる気はなくて、あたしは抱き着く腕に力を入れる。
「やっぱりクリスマスってカップル多いよね!」
「そうだな。俺には理解できねーけど。」
「そういう冬獅郎だって、今まさに彼女と歩いてるでしょ。」
「それはお前が、」
「ふふ、」
「…………それが目的か。」
何かを納得したかのようにそう呟くと、冬獅郎は小さく溜息をついた。それに対して「だって、クリスマスなのに一人でいるのって寂しいでしょ!」と返すあたしに、冬獅郎は呆れ顔を見せる。
「名無しさんの場合は年中無休でそうだろ。」
「だって冬獅郎のことストーカーしても良いくらいに大好きなんだもん!」
「そんなタチ悪いのを好きになった覚えはねぇけどな。」
「でもあたしのこと好きなんでしょ?」
「うっせ。」
じっと顔を覗き込んでそう聞いたら冬獅郎が赤くなってそう言うのはわかってたから、わざとそういう行動をとったのに、それに全く気が付かないでいつも通り顔を赤くする冬獅郎は可愛い。マフラーで鼻の辺りまで隠して、あたしに顔を見られないように、ふい、とそっぽを向く。それがもっと可愛いということも、冬獅郎は気付いていないらしい。
そんな冬獅郎が本当に大好きで、たまに本気でストーカーしてやろうかと考えてし合うあたしがいることは、冬獅郎には秘密。
「……名無しさん、」
「なーに?」
「…………、」
不意に話しかけてきた冬獅郎にあたしはちゃんと返事をしたのに、冬獅郎は先の言葉を言わずに歩き続けた。かと思えば、いや何でもない、と。何でもないわけないのはお見通しだってことくらい、それくらいは気付いてるはずなのに。あたかも何もなかったかのように歩き続ける冬獅郎に、あたしは「ふーん?」と厭味ったらしく返した。
そこで何を思ったのか、冬獅郎は突然足を止めて。
「……隊舎に戻って、明日の夜までに書類が片付いたら、クリスマスパーティーでもするか。」
「っ、する!するする!」
「書類が片付いたら!だからな!」
「わーかってるって!」
独り言のように紡がれたその言葉に、あたしは喜びを隠しきれなかった。自然と顔がにやけて、ふふふと笑うと、気色悪ぃからやめろ、と冬獅郎から一喝。そんなんで納まるような嬉しさじゃないことくらいわかってるくせに。ぎゅうぎゅうと体を押し付けて歩くあたしに、今度は「歩きにくい」とだけ言って、また歩き続けた。
「名無しさん、」
「ふふ、なーに?」
「好きだ。」
「っ、うん!あたしも冬獅郎のことだーい好き!」
十番隊隊長が街中で彼女と思われる部下とキス!
そんな話が隊舎内と周辺の町中の噂となっていると知ったのは次の日の朝のことだった。
(20111223)
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