あたしの創造主
嘘はつけなかった。彼の前で嘘をつけば、即ちそれはその瞬間から彼を敵に回すということに匹敵するとあたしは思ってるから。だから、彼には嘘をつけない。
恐怖という言葉がこの状況には、刀を向けられたあたしにはよく似合っている。下手をすれば、彼の斬魄刀の能力によってあたしは簡単に“射殺”される。
「ボクの斬魄刀の能力、知ってはるやろ?」
「………知って、ます」
「ほんなら、」
「言われなくても、あたしは市丸さんに着いて行きますよ。」
答えれば、市丸さんの口が綺麗な弧を描くのがわかった。
実のところ、恐怖という言葉がよく似合うこの状況であっても、あたしの心に恐怖は生まれなくて。あたしとしては市丸さん達と共に“反逆者”となろうが、そんなことは大して気に止まらない。問題はそこじゃなくて、あたしも一緒に連れていこうと思った市丸さんの意思の方。
「ですが、」
あたしという世界の中で、市丸さんの存在は創造主であると言っても過言ではないくらい大きく、もっと言うならば市丸さんの存在があたしを形成していると言ってもあながち間違いではない。それを彼は、市丸さんは知っていてあたしを誘ってくれたのだろうか。それともあたしは道具や玩具の様な存在として誘ったのだろうか。
「あたしを誘った意図を教えてください。」
あくまでも直球のストレートで言葉を投げるあたしに、市丸さんは一瞬戸惑ったような顔をした。良い意味か悪い意味かまでは、市丸さんの表情からでは読み取れないけれど。そして彼はそれを誰もキャッチ出来ないようなブレ球で返してきた。
「秘密や、名無しさんチャン。」
掴めるはずがない、掴みようのない言葉を放った市丸さんは決して表情を崩さず、ただただ口で弧を描く。あたしの世界の創造主は、一体あたしの世界をどうするつもりなんだろうか。
(20100902)
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