あれから、急に泣き出した理解不能な十四松を四人で宥めまくっていて、気付けばいつもの就寝時間をとうに過ぎていた。と言っても、別段、早起きの用事もないから良いのだけれど。 泣きながら寝るという子どもみたいな状態で寝てしまった十四松を布団に放り、寝る準備を終えた俺達は、準備したもののまだ寝る気分にもなれず、トド松の生還を祈りながらゴロゴロと布団の上で駄弁を弄していた。こういう時、同い年の兄弟が多いと話し手に困らなくて良かったと思う。
「っていうか、チョロ松っていつからあんなにオカン気質になったわけ?お兄ちゃん、ちょっと心配なんだけど。」 「気付いたらあんなんだったよね。」 「チョロ松なりの優しさだろう。」 「お前は生まれる前からクソ松だけどな。」 「えっ、」
いつものように一松がカラ松に強く当たれば、案外ガラスのハートなカラ松はほんの少しだけ目に涙を溜めた。そんなカラ松の背中をポンポンと叩いて「ドンマイ」と声を掛ける松姫(まつき)からは、フォローする気が微塵も感じられなくて。遂に項垂れるように布団に突っ伏してしまったカラ松に、俺からも心の中で「ドンマイ」を捧げよう。
「そう言う一松とおそ松はあんまり変わんないね。」 「そうかー?一松はこんな闇ってなかったと思うけど。」 「今でも普段はそんな、」 「松姫(まつき)、ちょっと黙って。」 「なに、もしかして松姫(まつき)と俺らの前で態度変えてんの、お前!」 「変えてないから。うるさい。」
半分閉じられた目でギロリと睨まれれば、大概の場合は怖いと感じるのかもしれないけれど、なんせ兄弟だし。っていうか、一松の顔真っ赤だし。あぁ、図星なんだな、なんて口には出さないけれど心中で納得していれば、無理にでも話を変えたいらしい一松が「そんなことより、十四松でしょ。」と零す。とうとう、誰もが触れてこなかった十四松の奇人っぷりについて語りだすのかと肝を冷やしたが、どうやらそういう事ではないらしい。 「こいつ、もっと泣き虫だった。」と、つい先程急に泣き出した弟を指差してそう言う一松に「あぁ、」とカラ松の感嘆詞が零れた。言われてみれば、十四松は昔もっと泣き虫だったような気がする。けれど、それと同時にすごく人のことを考えられる良いやつだと思う。今も、昔も。
「そういえば中学生の時、松姫(まつき)と十四松とトド松が高校生にやられたことあっただろう?その時も、松姫(まつき)とトド松を守れなかったって十四松が泣いてたな。」 「まぁ、十四松らしいよね。」 「あたしは弱虫の十四松も好きだけどなぁ。」 「ノンノン、十四松もメンズだからな。」
つまり、男なら強くなりたいと願うのはごく当たり前、ということなんだけど、そんな男心は松姫(まつき)にはピンとこないらしい。小首を傾げ「ふーん」とだけ呟いた。わからなくていいのだ、松姫(まつき)は。俺達の男心も、その男心が誰に向いているのかも、まだ何も知らなくていい。 そこでふと、まるでパズルのピースを嵌め込んだ時の様に、妙にしっくりと一つの考えが頭に浮かんで腑に落ちていくのがわかった。十四松がどうして泣いたのか、について。
「十四松は守りたかったのかもなぁ。今回も。」 「……何を?」 「あぁ。何も出来なくて悔し泣き、ってこと。」 「流石、十四松は優しきブラザーだな。」 「ちょっと!あたしだけ置いてけぼりなんだけど!」
松姫(まつき)は置いといて、一松とカラ松はすぐに理解したのだろう、俺と同じように妙にすんなり納得したらしかった。これ以上は十四松のプライドの為に言わないでおくとしよう。一松とカラ松に目配せをして、誰からともなく頷き合う。そんな俺達が気に食わなかったのか、ぼすっ、とカラ松に枕を叩きつけた松姫(まつき)は、そのまま雑魚寝の体勢に。 仕方がないから寝るかな……、なんてことには勿論ならないのが松野家で。結局、そこから枕投げ大会が始まって、少しした頃に部屋に来たチョロ松に怒られたのは言うまでもない。
(161003)
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