大きな栗の木の下で | ナノ


02.


HRで自己紹介を済ませたあたしの隣では、今朝、担任の先生から注意を促された「丸井」くんが机に伏せていた。寝ているのか、ただ単に伏せているだけなのかはわからない。
そんな丸井くんの様子にドキドキしていると、声をかけてきたのは丸井くんではなく、もうひとりの注意人物の方。そんな不意打ちにびくりと体を揺らせば、目の前の人物は喉の奥の方で「くっくっく」と笑った。

「そんなに驚きなさんな。」
「あ、ご、ごめん。」
「名無しさん、じゃろ?俺は仁王雅治じゃけぇ、よろしく。」
「よろしく、仁王、くん?」

言えば、プリッとかいうわけのわからない言葉を返されて。それに首を傾げて見せれば「特に意味はないぜよ。」と雅治は笑う。不思議な人。先生が言ってた「気をつけた方がいい」ような人には見えないけど。まだわからないだけかもしれない。

「にしても、お前さんは運が悪いのぅ。」
「どういう意味?」
「担任から聞かされんかったんか?ブンちゃんのこと。」
「ブンちゃん?」
「こいつ、丸井ブン太じゃ。」

仁王くんはあたしの隣に伏せている丸井くんのことを指差しながらそう言う。ブン太、なんて変わった名前。そんなことを思っていると、仁王くんは「ブンちゃんは食べ物の神様、いや悪魔じゃ。」と笑う。
すると「食べ物の悪魔」と言われた丸井くんが突然むくっと起き上がって、大きな欠伸をひとつ零した。それから雅治を見て、あたしを見る。

「名無しさん、」
「は、はい。」
「こいつは詐欺師だ。こんな奴の言うことは信じんな。食べ物の神様ならまだしも、悪魔なわけねぇだろぃ。」
「詐欺師?」
「なんじゃ、聞いとったんか。」
「聞いとったんか、じゃねぇ!俺のこと好き勝手言いやがって。」

顔を上げた丸井くんは、悪魔とか罵られた割には可愛らしい顔立ちで、大人っぽい顔立ちの仁王くんとは正反対。赤い髪だからどんなに怖い顔なんだろうと思っていたけれど、むしろ赤い髪が似合いすぎている。
起きるなり、丸井くんは思いっきり不服を顔に出して仁王くんに文句でまくし立てた。けれど、それに対して仁王くんは適当な返事をするだけで。さらに不満顔な丸井くんは「後で覚えとけよ」といかにもな台詞を仁王くんに投げつけた。



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