音駒 | ナノ


▽ 君を信じていいですか


バレー部の部長で、顔もスタイルも良くて、性格も良くて、友達も多くて、後輩にも慕われていて、人より優れた運動神経と、人並み程度には優れた学力。それなのに威張るという事はせず、弱者に寄り添う優しさと、皆を盛り上げる明るさを持ち合わせている。彼女のあたしが言うのもアレだけれど、こんな優良物件はなかなか無いんじゃないだろうか。
これらは全てあたしの自慢であり、一転して悩みでもある。

「黒尾くん、ちょっといい?」

今時、呼び出して告白なんて。そう思っていた入学当時のあたしをぶん殴ってやりたくなるほどに、彼は学校のありとあらゆる女の子たちから呼び出されては告白されていた。ある時は去年まで同じクラスだった女の子、ある時は女子バレー部の女の子、またある時は後輩の女の子。鉄朗があたしの彼氏かどうかは置いておいて、単純にこんなにモテる彼が羨ましいことこの上ない。あたしもそれくらいモテたい。
いや、違う、そうじゃなかった。つまり問題は、鉄朗がモテすぎるという事にある。勿論、鉄朗が一途という事はあたしが一番よく分かっているし、毎回告白される度に必ず相手の学年と名前、それから告白された状況までしっかりと報告してくれるから、間違ってもそういうことは無いと思う、けれど。

「夜久のクラスの奴だった」
「知ってる、あたし去年同じクラスだったよ」
「ふーん」

さっき告白してきた子は、正直言って可愛い。さっきの子に限った話じゃない。今まで告白してきた女の子たちの中にだって、あたしより断然可愛い子がたくさんいて。自慢じゃないけれど自分の外見に特別自信を持っているわけじゃないあたしからしてみれば、それは不安要素にしかならない。その上、さっきの子なんかは、あたしと鉄朗が付き合っているのを知っているはずなのに告白しに来ているのだ。つまり、あたしには勝てる自信があった、と、そういうことなんだろう。あたしがもっと鉄朗の彼女として相応しい女の子だったら、鉄朗だってこんなに告白されないのかもしれない。それがどうにも悔しくて。

「俺、お前以外に興味ねぇからな」

からからと笑う彼。ふと、心を読まれたのではないかと焦ったけれど、どうやら会話文の続きだったらしい。どちらにせよ、こんなに恥ずかしい台詞をサラッと言ってのけられては、返す言葉を見失ってしまって。「あ、ありがと」もごもごと言葉を紡ぎ出すあたしに「照れてんの?」なんてニヤニヤして、それから「ほんと可愛いよな、お前」とキスを一つ。公開処刑、否、公開虫除けとでも呼ぶべきか。
ふと、唇を離した彼を見て、あたしは思わず笑いを零してしまった。どうやら、心配なんてものはあたしの杞憂に過ぎなかったらしい。「み、見んな……!」と両腕で隠してしまうほどに顔を赤くして、彼の気持ちを証明されてしまったのだから、これからも信用するしかないじゃないか。


(170505)リクエスト...りく様(Twitterより)


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