青葉城西 | ナノ


▽ 曇りのち晴れ


あたしは彼のことが大好きだし、彼から贈られてくる無償の愛を本当に信用している。だからいくら彼、及川徹が多くの女の子に囲まれていようと、一切文句を言わずに過ごしてきた。それは今回も同じで、昼休みに彼が告白されるシーンを偶然目撃してしまったあたしだけど、それに関しては何も触れずにこうして彼と下校している。
これでいいのだ。あたしが我慢することで全ては丸く収まり、あたし達の関係も円滑に進んでいくのだから。

「今日もマッキーがシュークリーム食べててさ、よく毎日飽きないよね。」
「流石に毎日は食べれないかな、あたしも。」
「だよね。あ、そのマッキーがね、美味しいケーキ屋さん教えてくれたから今度行かない?」
「うん、行く!」

あたしが笑えば彼も笑うし、彼が笑えばあたしも笑う。いくら胸がモヤモヤしていようとも、この関係を終わらせるようなことだけはしたくなかった。だってあたしはそれほどまでに徹が好きで、大好きで、手放したくないから。少しでも不安な顔をしていればすぐに気付いてしまう彼だから、この気持ちがバレてしまわないように、心の奥底に押し込める。大丈夫、すぐに忘れられる、そう自分に言い聞かせ未来の自分に全てを託して、あたしは笑顔を作った。
それが唯一の致命的なミスだったと気付いたのは、事が終わってからだった。

「ね、今日何かあったでしょ?」
「え?」

会話だけを汲み取れば、ケーキ屋さんに行かないかと誘われて行くと返事をしただけなのに「何かあった?」という言葉はおかしいし、言い方からすればあくまでも疑問ではなく確定。あったかどうかの話ではなく、何があったか説明しろという話だということらしい。素直に答えるべきか否か、とりあえず考える時間を設けようと疑問を疑問で返せば、はぁ、と小さく溜息を吐いた彼は足を止めて正面に立つ。それからあたしと同じ目線になるように少し膝を折って、もう一度同じ言葉を繰り返した。
今日、何かあったでしょ?
先程より随分ゆっくりと、綺麗な瞳は一切あたしから視線を逸らすことなく、言葉通り真っ直ぐにあたしへと向けられて。思わず、本音が零れてしまったのだ。

「告白されてるとこ、見ちゃって、」
「……うん、」
「でも、モテるのは知ってるから、そういうのは別に良いんだけど、」
「うん、」

彼氏がチヤホヤされることが嫌なわけじゃない、寧ろそれはあたしの彼氏なんだって胸を張れる。告白だって、徹は絶対に断ってくれるって信じてるし、だから特別あたしに報告しないってこともわかってる、けれど。きっと、あたしのモヤモヤの原因はそういうことじゃない。
ああでもない、こうでもない。自分の気持ちをうまく言葉に出来ずに黙り込めば、先程まで相槌を打って聞いてくれていた彼は、不意にあたしを腕の中に収めて「寂しい思いさせてごめんね」と。それと同時に、ストンと腑に落ちたのだ。

「……寂し、かった、」
「ごめん、もう寂しい思いさせないから。」
「……うん、」

寂しかった。そう言葉にしてしまえば、思いの外素直に涙が溢れ出して。ぐりぐりと徹の胸に顔を押し付ければ、ポンポンと優しく頭を撫でてくれた。
「名無しさん、好きだよ。」ぎゅう、と少しだけ腕に力を込めてそういう彼に「うん、知ってる、」そう返せば、少し笑って。

「本当に好き、大好き。愛してる。」

好きだよ、なんてその他多数の女の子に向けられる胡散臭い一言ではない。バカみたいに告白の言葉を詰め込むのは、彼の精一杯の表れで。それにつられてクスクス笑っていれば「もう!」とぷんすかする彼の声に、今度は声を出して笑いあった。


(160508)


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