青葉城西 | ナノ


▽ ヤキモチワンクッション


 同窓会、という程のものではないけれど、久しぶりに男子バレー部の同期で集まろうというお誘いが来たのはつい先月。それはレギュラーでありエースだった彼は勿論のこと、マネージャーをしていたあたしにも声がかかり、漸く予定があった今日、飲みに行くこととなったのだ。
 正直言って、あたしも彼も、誰かと頻繁に連絡を取り合うような人間ではない。今回の件も、彼の幼馴染である及川の存在あってこそのものである。決して仲が悪いわけではないのだが、ただ、こう、面倒臭いが勝ってしまうというか。兎にも角にも同期のメンバーと会うのは久しぶりだ。
「二人とも、久しぶり!」
 こういう時、真っ先に声を掛けてくれるのが、今回、あたし達に同窓会のお誘いをしてくれた及川という男である。及川の後ろの方では、既に何人かの懐かしいメンバーが座って待機しているのが見えた。みんな変わってないなぁ、なんて思っていれば「みんな変わんねぇな」なんて彼が呟いたから、思わず笑いが零れた。
 それから話に花が咲くまで、そんなに時間がかからなかった。部長を務めていた及川が乾杯の音頭をとり、みんなが自由に飲み始める。「飲み過ぎないでよ!?」なんていう及川の忠告なんて、きっと誰も聞いちゃいない。高校の時の練習風景と何ら変わらないみんなの自分勝手さに、あの頃を思い出してじんわりと心が暖かくなった。

「俺、実はマネのことずっと狙ってたんだよなぁ」
 ある程度酔いが回った頃、そう零したのは湯田くんだった。「岩泉の彼女だって知って諦めたけど」なんて笑って言うから何だか申し訳なくて「ごめんね」と答えて見せれば、湯田くんも笑って「幸せにしてもらえよ」と。やっぱり、湯田くんもあの頃と全く変わってなくて、他人の幸せを簡単に願ってしまうような優しさに感謝して「湯田くんもね」と返した。
 多分、彼から目を話してそんな話をしていたのが悪かったんだと思う。
「あ、おかわりいる?」
「うん、何飲もうかな……湯田くん、何飲んでるの?」
「俺はこの当店おすすめってやつ」
「ちょっと飲んでみていい?」
「うん、どうぞ」
 先程の流れで湯田くんや、その周りに座っていたメンバーと他愛もない話をしていたあたしに、突然降りかかる重み。それからほんの少しの苦しさ。姿を見なくても声や匂いだけでそれが彼だということは分かるし、湯田くんの引き攣った表情からしても、それが確実に彼によるものだと分かった。
 彼の腕は完全にあたしの体に巻き付き、背中から抱かれているせいで、彼の吐息が首元にかかる。ヤキモチ、だなんて可愛いもんじゃない。
「なぁ、何してんだ?」
 いつもより少し低い声。あたしの手にあった湯田くんの飲み物は簡単に奪い取られ、それからすぐに彼の喉がごくごくとあたしの耳元で音を立て、あたしの手に戻ってきたのは空になったコップ。見ていなかったけれど、彼が飲み干したのだということは容易に理解できた。
 さっきまで引き攣った笑顔を浮かべていた湯田くんたちは、いつの間にか目を丸くしていて、その上、同窓会に参加しているみんなに視線がこちらに集まっている。理由は単純。岩泉一という男がヤキモチをやくだなんて、そんなこと誰も想像していなかったからである。確かに、部員の前では「男前一筋」だった彼が、まさかこんな人間だったなんて想像のしようがないけれど。
「……酒の力ってすげぇな」
「いや、ごめん、ずっと前からはじめはこんな感じだよ」
「え、」
 お酒の力が関与しているとしたら、多分、このデレっぷりを人前で出してしまったところだろう。あたしから全く離れようともせず「ピール」と口にした彼には、もしかしたらこの記憶なんて残らないのかもしれないけれど。いや、みんなからすれば、自分たちの身を護るためにも、是非ともこの記憶が消え去ってほしいに違いない。

 その後、同じ手口を使って散々飲まされたはじめ。朝起きて「湯田とお前が話してた辺りから記憶ねぇんだけど」と呟いていたので「普通に飲んでたよ」と記憶を隠蔽しておいた。


しさちゃんより(180227)



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