青葉城西 | ナノ


▽ 岩(祝)いの品



「は!?岩ちゃんに彼女出来たなんて聞いてないんだけど!」

 部活の夕練が終わり、全員が協力して片付けを行っている中、決して狭いとは言えない青葉城西の体育館に、その声が響き渡った。声の主は、このバレー部の部長である及川である。いくら広さのある体育館と言えど、近くに居たものにとってそのボリュームは騒音と変わらず、及川に向かって「うるせぇ」と拳骨が一つ落とされた。
「だって!岩ちゃんに彼女とか有り得ない!」
「あ?」
 もう一つ拳骨が落ちたことはさて置き、岩ちゃんの彼女、というのはつまりあたしの事である。つい先週告白されて、高校一年生から続いたあたしの片想い生活はようやく実を結んだのだ。それを彼の幼馴染である及川が今更知ったことの方が驚きだったが、この反応を見ると彼が及川にこのことを告げなかった理由がよく分かった。どうやら、話を聞く限り、相手があたしだということはまだ言ってない様子。あたしとしても、うるさそうだから卒業までは秘密にしておきたい。
 どんな子なの、という部活仲間である松川からの質問に「あー、まぁ、可愛いやつ」なんて赤くなりながら答える彼を見て、思わず手元のモップへと視線を落とした。一生懸命に掃除しているふりして、俯いた顔は自分でもわかるくらいに緩み切っている。ひゅー、なんて揶揄われているのだろう、今度は彼が「うるせぇ」の一言を体育館中に響き渡らせた。
「明日は赤飯だね!」
「だな、賛成」
「何でだよ」
「まぁまぁ。めでたいってことで」
 掃除へとシフトチェンジするはずが、知らず知らずのうちに聞き耳を立てていたあたしは、めでたいから赤飯を食べるなんていうバカまっしぐらな発案に思わず笑みを零した。まだ彼女になったという自覚はないけれど、大好きな彼が愛されていることがとても誇らしいし、愛おしい。それからもわいわいと騒がしい彼らを見ながら、たまに笑いを零していれば「先輩、大丈夫っすか」と後輩に心底心配そうな目を向けられてしまった。

 次の日、朝練を終えて、同じクラスである彼と一緒に教室へ戻れば、案の定というべきだろうか、机の上には赤飯が置かれていて。それを見るなり彼は「あいつら……」と溜息を零したが、それはほんの数秒で切り替えられ、ポジティブ思考の彼の前にて「祝いの品」という名の悪ふざけから「ただの食べ物」へと格下げされてしまった。
「ま、腹減ってたし助かった」
 そういう所も好きだな、なんて思いながら、もぐもぐと赤飯を食べる彼を見つめた。
 後日、どこの情報ルートでバレたのか、あたしの机にも赤飯が。



かっさらい隊・しさちゃんより(171108)


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