Hot summer !!! | ナノ


  10.共通点


昨日の夜、卓球を終えてもうひと風呂入ってから部屋に戻れば、まるで恋人同士のように寄り添って眠る名無しさんと財前が居った。そこで生まれた後悔は朝になっても消えることなく、昨日の夜から変わってない2人の寝姿を見つめることしか出来ひん。後悔しても何も変わらんことはわかっとるのに。

思えば、小さい頃からずっとそうやった。遊ぼうと思って名無しさんの家まで行ってみれば、今日はお隣のヒカルクンの所に行ったんよ、なんて言われて。何度家の前で落胆したことか。それどころか、お互いの小学校の話をすれば名無しさんの口から必ず出てくるのが、そのヒカルクンや。その頃からずっと、知りもしないヒカルクンが嫌いやった。
それがこの財前光やと知ったのは、名無しさんがテニス部に来てからのことで。今更、財前がヒカルクンやったからって嫌いにはなれへんし、しかも財前えぇやつやし。せやけど名無しさんへの気持ちも捨てられへんのが事実。

「ちょっと走ってこよ。」

もやもやする気持ちを払うためにランニングでも行こうかと準備をすれば、不意に「謙也、」と声が聞こえて。少しだけビックリしたのはここだけの秘密で、目を覚ました名無しさんに「おはようさん」と微笑む。そうすれば、まだボーっとしとるらしい名無しさんはゆっくりとしたテンポで言葉を紡いで「どこいくん?」と。

「ランニングや、一緒に行くか?」
「……行く!」

らんにんぐ、ランニング……。眠っとる頭で必死に検索しとるのが容易にわかって笑みが零れる。それからやっと言葉を飲み込んだ名無しさんはにっこりと笑った。
外に出れば、日中とは違って涼しい空気が流れて心地良い。それは名無しさんも同じようで、深く深く深呼吸して「気持ちえぇなぁ。」と呟く。同じこと考えとったんやな、なんてニヤけた。

「謙也、あそこまで勝負や!」
「えぇで!」
「ほなお先!」
「ちょ、スタートの合図は!?」

同じ遺伝子を引き継いどる所為か、名無しさんは俺と同じで足が速い。また共通点が一つ。こんな小さな共通点でも嬉しくてにやけてしまうあたり、俺もまだまだ子どもやな。
名無しさんに近しい存在なのは、なにも財前だけとちゃうねん。


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