立海 | ナノ


君が、好きです。


「ふあ、」と隣に座るクラスメイトは授業が始まったばかりだというのも気にせず、大きな欠伸をひとつ。それから机に伏せ睡眠モードに入ろうとする彼に、あたしは拳骨をプレゼントしてあげた。
そうすれば「いてっ!」という大きな声と、それを制裁する教師の声が。

「名無しさんのせいで怒られただろーが。」
「赤也が寝ようとするのが悪い。」
「仕方ねぇだろ、眠いもんは眠いんだし。」
「へぇ、じゃあ起こさないで幸村さんに報告すればよかった。」
「え、いや、それは、」

冗談で言ったはずだったけれど、予想以上に赤也がビビるから今度からも幸村さんで脅そう。そんなことを考えていると、隣の彼は頬杖をついて「はぁ、」と大きな溜息をひとつ零した。

「なに、どうしたの。」
「なんつーかさ、俺って自由な時間ねぇよなーって思ったら溜息出た。」
「は?」

赤也は真剣に言ったのかもしれないけれど、それに対するあたしの答えはたった一文字。それから大量の疑問符だった。
赤也が溜息つくくらいならまだ許容範囲内だったけど悩み事とかバカのくせに意味わかんないし、その物思いに耽った喋り方も似合ってない。とりあえず、なんか、その、赤也気持ち悪いよ。
あたしの口から思ったことが全て溢れてしまっても、赤也はあたしを見てさらに溜息をつくだけ。あの赤也が怒らないどころか何も言い返してこないなんて。

「あ、あの、赤也?」
「ん?」
「え、あ、えっと、何かあった?」
「あー……。」

それからまた少し考え込む赤也の視線は、一体どこへ向かっているのかわからない。呼んでも目の前で手を動かしてもダメだなんて、もしかしたら本格的なバカになったのかも。そんなことを考えながら赤也の顔を覗き込めば、ふと意識を取り戻した赤也は、何を思ったのか目を大きくして椅子から落ちたからやっぱり本格的なバカになったんだと思う。

「いってー……」
「あたし、何から突っ込めばいいのかわかんないんだけど。とりあえず大丈夫?」
「大丈夫っつーか、大丈夫じゃないっつーか。」
「は?」

意味が分からずに聞き返せば、今度は赤く染めた顔を少し逸らしたりするもんだから尚更理由がわからない。

「名無しさんのせいで。」
「は?え、あ、ビックリさせっちゃったならごめん。」
「…………いや、何か、もういいや。」
「何その言い方、モヤモヤする。」
「モヤモヤするのはこっちだっつーの!」

何故、逆ギレされなければならないのか。さっきから赤也の調子がおかしいから心配してあげたっていうのに、心配して欲しくないかのような態度だし。っていうかもはや挙動不審の情緒不安定野郎。とどのつまり、赤也が何を考えているのかわからない以上、あたしには対応のしようがない。
語尾を強めた後に「はっ、」という言葉がよく似合う顔をした挙句、この赤也が「悪い。」だなんて。

「赤也、悩みがあるなら相談に乗るけど。」
「…………どんなことでも?」
「どんなことでも。」
「じゃあ一つだけ。」
「どうぞどうぞ。」
「実は、」

相談に乗ると言うと少し考えてからあたしを見た赤也は、それから一切目を話すことなく。

「   、    。」

ゆっくりと開かれた口から紡がれた言葉を理解したのは三秒後。それと同時に赤也は教室を飛び出した。先生が何かを言っているようだけど、それを理解するほどあたしの脳に余裕はない。

名無しさんが、好きです。


(20140601)


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