バトテニ | ナノ



殺したくはなかった。けど、死にたくもなかった。せめて彼女に、名無しさんに会うまでは。だから彼を殺したのは、俺にとって仕方なかったことなんだ。そう何回も何回も自分に言い聞かせて、俺は彼の元を離れた。


彼に会ったのはもう何日も前のことだった。彼、柳蓮二は俺にとって、とても大切なライバルであり友達。だから彼は特に殺したくなかった、けど会いたくなかったのに出会ってしまって。

『会ってしまったな。』
『…うん』

彼ならこの辺りに俺が居ることくらいわかってた筈なのに、それでも彼はここに来た。理由なら簡単に当てることが出来る。“俺に殺される為”だ。

『ずっと毎日顔を合わせてた仲間が、勝利を求めて団結していた筈なのに。こうも簡単に壊れるなんて思ってもみなかったよ。』
『…まだ、レギュラーは誰も死んでないらしい。』
『………。』
『お前が作り上げた仲間は、そう簡単に壊れたりしない。だからもっと悔しい、違うか?』
『何でもお見通し、か…。』

流石、参謀は違うなぁ。なんて笑って言えば、彼もまた俺に向かって笑ってくれた。人の笑顔を見たのは何日ぶりだろう。苦しい顔ばかり見てきて、笑顔というものを忘れそうだった。

『でも、いつかは皆殺し合うだろうな。』
『うん。』

時間以内に生き残り1人が決まらない場合は、ハンターの手によって全滅させられる。それだけはどうしても嫌だった。
俺達には名無しさんという、可愛くて優しくて仕事もしっかりこなしてくれるマネージャーが居て。今回、この戦いに彼女も巻き込まれていることを皆知っている。だからこそ、全滅という手段だけは嫌だった。

『名無しさんだけは、生き残って欲しいな…』
『俺も同感だ。』
『きっと皆もそう思ってるよ。』

そう言いながら近くの木に腰掛けると、彼も同じように木に腰掛ける。俺が彼を殺さないとわかっているのか、彼は配布された銃から手を離した。

『精市、』
『ん?』
『きっと終了時間近くになれば、あいつ等も殺し合うと思う。その時は、俺を殺してお前は名無しさんに会いに行け。周りに邪魔が居るなら殺してでもな。』
『柳は俺に、お前も仲間も殺せって言うの…?』



結局俺は彼を殺した。他に生き残ってた仲間も殺した。ただ、彼女に会う為だけに。悔しくて悲しくてどうしようもなくて、涙すらでなくて。彼女を見付けた時、俺は何も考えずに彼女を抱きしめた。

「会いたかった…」
「うん、私も。」
「人を沢山殺して、辛くて、悲しくて…」
「うん」
「皆、俺が…」

今まで流れなかった分の涙が今になって溢れ出して、彼女をもっとよく見たいのに滲んで見えない。もっとよく見たいのに、涙が止まらなくて。
少し落ち着くと、俺は一度彼女から離れた。その時ふと、彼女が何も持って居ないことに気付いて。そんな俺を見て、彼女は悲しそうに笑う。

「どうせ死ぬならさっさと死にたくて、途中で全部捨ててきた。それなのに、皆私を殺さないで自殺していくの…おかしい、よ……」
「名無しさん、泣かないで。俺は名無しさんの笑顔を見に来たんだから。」
「え…?」

言えばきょとんとする彼女に、優しく笑いかける。上手く出来ているかどうかはわからないけど。それから彼女に少し近付いた。

「名無しさん、俺…ずっと柳と一緒に居たんだ。今までのこと沢山話したんだよ。一度は赤也のストレートが見てみたかったとか、ブン太が痩せてるのを見てみたかったとか。沢山沢山話して話して話して、殺して来たんだ、俺が柳を。柳と会うまでは誰かに殺されても、それはもう仕方ないって思ってたんだけど、柳に言われたんだよ。」
「何、を…?」
「“今ここで名無しさんに会わずに死んだら、後悔する。天国でそんな精市を見たくはないからな。”だって。だから、俺を殺してお前は名無しさんに会いに行けって言われたよ。」
「…そっか、」
「俺の彼女は名無しさんだけだよ。」

笑って、抱きしめて、もう一度少し離れる。大好きだよ、そう言えば彼女は顔を赤くしてくすぐったそうに笑った。大好きだ、離れたくない、離したくない。

「だけど、名無しさんの彼氏は一生に俺だけじゃなくて良いんだよ。もっとカッコイイ人とか、もっと優しい人とか、もっと色んな人を好きになって良いんだよ。」
「それってどういう…」
「結婚して、幸せになって、たまに俺を思い出して。それで良いから。…ありがとう、本当に大好き。」

それから俺は彼女をまた抱きしめて、彼女の背中の方で自分の頭に銃を突き付ける。撃ってからも少しだけ残ってる意識で、ただ何度も彼女を呼んだ。泣かせてごめん。

俺達はただ、運が悪過ぎた。



(091229)


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