いつだってきみはずるい 「あはははっ!」 食堂で響き渡るのは国近の笑い声だ。 隊長会議と言う堅苦しいものが終わり、風間さんと共に隊室へ向かう途中で寄った食堂で知り合いの声がするのはよくあることだ。しかし、食堂へ入るなり視界に飛び込んできた金髪に俺はその場から動くことが出来なかった。 珍しい。これがごく純粋な感想と言えるだろう。 人ごみを嫌う鈴谷が食堂へ居るなんて珍しいの一言につきる。風間さんも鈴谷の存在に気付いたのだろう。切れ長の目を僅かに見開いたのが分かった。 「えー、じゃあさ。これとかどう?」 「どうって言われても」 「じゃあこれ!」 この場に出水が居れば違和感も拭われただろう。しかし、食堂の中心にあるテーブルに居るのは国近と鈴谷だけだ。食い気味に鈴谷へ詰め寄る姿を見れば珍しい組み合わせだと驚く以上に何ともいえない感覚が胸中に蟠りとして残る。 自然と足がそちらに向いた。 「あ、隊長! と風間さん」 「……ちわっす」 俺たちを見つけるなに立ち上がり手を振る国近と、そんな彼女とは対極に安心した表情を浮かべる鈴谷。今までのやり取りが鈴谷にとってかなり大変であったことが伺えた。 国近の横に俺が座り、鈴谷の横に風間さんが座る。座ったと思えばすぐに立ち上がった風間さんはカツカレーを頼みに行ってしまった。 「じゃあ、俺はこれで」 「ちょっと待ってよ! 今、良い所なんだから」 「なにしてんの?」 興奮気味に詰め寄る国近はいつもの様子であるものの、鈴谷に絡む姿は珍しい。しかも、二人の間に置かれているのは女性ファッション誌と言えるもので、今の季節柄を考えてのコーディネートが様々掲載されていた。 それを二人で眺める意味が分からず首を傾げれば、国近は笑みを浮かべたまま今までの経緯を語るのだ。 「出水くんから聞いたんだけど、鈴谷くんって服のセンスが良いみたいでさー。今度、合コンがあるからどんな服が男の子にウケるか聞いてたの」 「だから俺は」 「それなのに、鈴谷くんてば、女の服は知らねえの一点張りで、今、鈴谷くんの女性歴聞いてたんだよね」 ね! そう強調されれば、引き腰の鈴谷は露骨に嫌そうな表情を浮かべるのだ。 そんな二人を見ながら思うことは、いつの間に仲良くなったのだろうかと言うことであった。国近は出水同様人見知りをしないタイプでガンガン攻めていく感じの子であり、フレンドリーな性格からもすぐに打ち解けていたのは何度か目の当たりにしたことがある。しかし、食堂で二人で居ることも驚きであり、嫌そうにするものの心の底から嫌がる様子を見せない鈴谷。 唖然とする俺の前にカツカレーのトレーを手に持った風間さんが戻ってくる。 椅子に座るなりカレーの隣置いてあるプリンに目が向く。 「風間さん、それって」 「ああ。好きだっただろう? 新商品だと食堂のおばちゃんが言っていた」 国近と鈴谷の前にプリンを置いた風間さん。そんな風間さんの男前な所に国近が騒ぐ中、卵料理が好きな鈴谷は小さく会釈したあと、スプーンを掴むのだ。 「風間さん、鈴谷が卵料理好きって知ってたんだ」 「この間、同じスコーピオンを得物にする者同士でランク戦をしたことがあってな、その時に知ったんだ」 「その節はありがとうございます。勉強になりました」 「俺のほうこそ良い経験になった」 カツカレーを頬張りながら言った風間さんに口元を緩める鈴谷。 国近と鈴谷、或いは風間さんと鈴谷の組み合わせに俺は瞬くしか出来ないでいた。 出水を通して知ることになった鈴谷の嗜好。少しずつ距離が縮まっていると感じていただけに、二人の関係性を知って漠然とした疎外感を覚えてしまうのだ。 「と言うか聞いてくださいよ隊長。鈴谷くんってこんなに格好良いのに今まで彼女とか出来たことないんですよ。けど、言い寄って来る子は多いみたいで適当に遊んでるって」 「! そ、それはあんたが言わせたんだろ」 「けど事実なんでしょう?」 俺と目が合った鈴谷は気まずそうに視線を逸らした。口をへの字にする様子からもかなり不機嫌なようだ。しかし、国近と風間さんであるからか、表立って不機嫌さを出さないようにしている姿を見れば、らしくもなく二人を羨ましいと感じてしまうのだ。 距離を縮められたと思っていたのにも関わらず、俺の知らない鈴谷を知っているのが羨ましい。もっと近づき、様々な鈴谷を知りたいと願ってしまう俺は鈴谷が絡むと普段通りの俺ではいられなくなるようだ。 「鈴谷、今度はいつ暇になる? お前とまた、ランク戦がしたい」 「! お願いします」 いつだってきみはずるい 俺はこんなにも君のことを考えているのに。 20160412
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