大砲娘と世界征服論 | ナノ



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「みなさんこんにちはー、実況の太刀川隊国近ですー」
「解説席には葵ちゃんとゾエくん。本日お昼の部はゆるゆるマイペース系トリオでお送りしまーす」
「ちょまちょま。葵さんと国近さんは分かるけど、ゾエさんは違うよ?!」
「えー、ゾエさんもゆるゆるじゃん」
「ゾエさんのお腹見ないで!」
 
 そんなこんなで始まったB級ランク戦。
 解説役に抜擢された私は右手に国近ちゃん。左手に北添という位置でマイクを片手に実況席へ座っていた。
 このランク戦が終わった後は休む間もなくラボでのディスカッションだ。正直な所、朝起きてから身体が怠くて熱っぽいのだけど気にしてはいられない。
 
「(ちゃんと栄養ドリンクも、風邪薬も飲んできたから大丈夫。なんとしても今日を乗り越えなければ)」
「今回選ばれたマップは市街地Aです。狭い所もあれば広いところもある、至ってフツーのマップです」
「玉狛は市街地Aで戦ったことがないから古株チームのほうが有利かもね」
「マップが凝られていない分、地力の差が勝敗を分けそう」
 
 可も不可もないマップ。選択したのは王子隊だ。きっと王子のことだから入念に作戦を練ってきているのだろう。生駒隊と王子隊のマッチアップはこれが初めてではないから、玉狛をどう攻略するかが2チームの鍵になると言えるだろう。
 
「さてさて、女神な葵ちゃん。今回の予想をズバリ」
「(女神って、)うーん、今回は僅差な気がしてるんよねー。王子5の玉狛3、生駒2かな」
「あれれ、隠岐くんを贔屓しないんだ?」
「え、なんで隠岐が出てくるのさ」
 
 と言うか、勝敗に贔屓もなにもないからね。
 そう国近ちゃんに言えば、頬を膨らませて拗ねた表情をされた。いや、かわいいけどそれで揺らがないからね。
 
「けど、玉狛が勝つっていう予想じゃないんですね?」
 
 北添の意外そうな声の原因は、今まで言い当ててきた点数の大体が玉狛勝つというものだったからだろう。ランク戦で蒼也と言い当てしていたけれど、皆がみんな知っていることが怖い。どんな情報網があるんだ。
 しかし、前回の試合でなんとなく玉狛の戦術が頭打ちであることを読んでいた私からすれば、今回は王子の戦略に賭けてみたい気持ちがあるのだ。
 
「王子の戦略をこれでも買ってるからね。玉狛も派手にやらかしてくれている分、データも揃ってきているし、そろそろ限界かなあと」
 
 今までびっくり箱だった玉狛。前回の試合はそんな彼らの基本スタイルが確立した試合であったように思う。となれば、周囲はそれに対して対策を立ててくるのが普通であって、彼らは地力以上の力を出せるのか、そこになってくる。
 鍵を握るのは三雲くんと千佳ちゃんだ。
 この一戦で点数を落としてしまえばB級2位以上に上がることは実質不可能になってくる。
 
「(ヒュースの加入が困難なこの試合。手の内を見せている玉狛がどう粘るか)」
 
 勿論、王子隊も生駒隊もそんじょそこらの戦略じゃ簡単に落ちるような部隊ではない。
 それが楽しみでもあって、不安要素でもあった。
 
「B級ランク戦、ラウンド6。全部隊転送完了」
「転送位置はばらばらですが、生駒隊がそこそこ揃っているっぽい」
 
 普段は合流を優先させる玉狛は合流しない動きを見せている。それはバックワームを着ている三雲くんが周囲にバレないような配慮だろう。しかし、王子隊のばらばらな動きはそんな三雲くんを探すような動きに見える。
 
「やっぱり王子隊は三雲くんを落としにかかるみたいだね」
「闇雲に探すのは無駄が多いんじゃない?」
「ある程度一定間隔に転送される訳だから、闇雲とはちょっと違うかな」
 
 王子隊からしてみれば、ある程度戦術が読める生駒隊よりも玉狛隊を警戒しているのだろう。三雲くんを野放しにすることが勝算を減らすことに起因すると読んだ王子隊。彼らにはその三雲くんさえ落とせば勝てる技量があった。
 しかし、玉狛がそんな王子隊の動きを読んでいないとは思えない。
 案の定、三雲くんに接触を図ろうとした王子隊の樫尾と、偶然その場に居合わせた生駒隊の南沢をアステロイドを使い意図的に場所を知らせて鉢合わせることを成功させた。
 そのことによって、自身の場所が大方バレたとしても前回のようなヘマはしないで済んだようだった。
 
「空閑くんの釣りも良かったけれど、徹底して三雲くんを洗い出す王子に執念を感じるものがあるね。しかし、此処からどう逃げ出すかだ」
「三雲くんの考えられるパターンは幾つか限られていそうだね」
「いち、その場を動かず空閑くんの援護を待つ。に、まっすぐ空閑くんの居る北へ行く。さん、誰も居ない南東へ移動。よん、生駒隊の居る西へ移動。どれだと思う?」
「北か西!」
「そう。三雲くんにはワイヤーを張るという仕事があるから1はダメだし、エリア外に出てしまえばアウトだから、限られた選択で一番有力なのは2か4。けれど、恐らく三雲くんの性格を考えると――」
 
 生駒隊と王子隊を鉢合わせるために4を選択するだろう。
 三雲くんは自分の技量を知っているからこそ無茶はせず、他の部隊を引き合わせて潰し合わせるのが上手い。
 
「あ、南沢落ちたな」
 
 三雲くんの張っていたワイヤーが後押しになったのか、樫尾との戦闘に熱くなりすぎたのが仇になったようだ。王子隊蔵内のサラマンダーによって南沢がベイルアウト。そのまま樫尾と合流し王子隊は三雲くんを追う。
 逃げる三雲くんはその間ワイヤーを張ることが出来ない。王子隊は走ることの出来る部隊だから追いつかれるのも時間の問題だろう。――しかし、玉狛隊も引くことはなく王子隊にぶつかる。空閑くんのグラスホッパーを重ねての蹴りはかなりの威力があったようだ。樫尾がぐらつきバランスを崩す最中、空閑くんのスコーピオンが彼の右腕を落とした。
 そんな空閑くんを迎撃しようとした蔵内の隙をついて千佳ちゃんの鉛弾が彼の右足を貫いた。ベイルアウトこそしなかったものの、一瞬にして王子隊の機動力と攻撃力を欠かした玉狛隊の襲撃は中々骨がある。
 
「まず足を狙うあたりがちゃんと勉強してるっぽいな」
 
 千佳ちゃんの射線から逃れるために動き出す王子隊。そんな王子隊の前に回り込んだ空閑くんは3対1を挑もうとする。けれど、そこで王子隊と空閑くんの足が止まった。
 
「おー、生駒旋空きたね」
 
 此処で生駒の旋空弧月が割って入り、状況は膠着状態へ。