大砲娘と世界征服論 | ナノ



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「北添とその他ギャラリーが生駒旋空の仕組みをいまいち分かっていないようだから、国近ちゃん解説よろしく」
「あいあいさー! 旋空が斬撃を飛ばすことは知ってるよね? 一言で言えば、よく知られている旋空弧月と生駒旋空は効果時間が違うんだよ。旋空の射程アップ性能は効果時間と反比例するから、効果時間が短い程、射程が伸びるってこと」
 
 例えるのであれば、太刀川をはじめとする一般的な弧月使いは旋空を1秒くらい発動して射程を15mに伸ばしているけれど、生駒は起動時間を0.2秒に絞って、射程を40mに伸ばしてるのだ。
 
「刀のスピードが早いのに加えて、旋空の起動時間を的確に合わせないといけないからイコさんの旋空は唯一無二なんだよねー」
 
 話を生駒旋空から戦況に戻して、そんな感じで必殺技を使って登場してきた生駒隊に空閑くんは王子隊と生駒隊、両方から挟まれる結果となった。瞬時にその場から逃げることを選択した空閑くん。その脳裏には南沢が落とされたことによる確執から、生駒隊が王子隊を狙うと推測したように見える。
 案の定、生駒隊は王子隊と全面対決に持ち込んだ。水上のアステロイドにみせかけたハウンドはかわされることとなり、浮いた駒を生駒が生駒旋空を使って斬撃を入れる。
 狙われたのは蔵内で、生駒旋空を避けたものの隠岐と千佳ちゃんによるW狙撃によって片膝をついて地面に着地する形となった。
 生駒の接触を警戒する王子隊。そんな王子たちの行動をあざ笑うように、その場から動けていなかった蔵内の首をバックワームを着た空閑くんがスコーピオンで落とすのだ。
 
「混沌とした戦況の隙をついた上手い攻撃だな。生駒隊の攻撃を上手く利用してる」
「脚をやられた蔵っちを残して機動戦を封じる手もあっただろうけど、遊真くんは倒しにきたね」
「射手は脚を失っても厄介だからね。危険分子を早急に切り取った良い判断だと思うよ」
 
 王子隊は生駒隊から逃げるようにその場から立ち去った。それによって玉狛隊と生駒隊をうまく残した形になり、空閑くんは生駒に仕掛けてきた。
 そんな中、隠岐は千佳ちゃんを狙撃するように命じられているようだ。千佳ちゃんにはカウンタースナイプが一番手っ取り早いだろうし、狙撃手は追いかけるよりも狙撃手で狙うほうが定説だけど、追いかけるのは隠岐だけじゃなかったようだ。
 
「此処で王子隊が狙撃手を狙う」
 
 浮いた駒に狙いを定める、走れる部隊。そんな異名を持つ部隊が、持ち前の切り替えの良さで千佳ちゃんと隠岐は同時に身バレすることになった。
 
「機動力を使って手薄な所を攻める。A級で言うと草壁隊の得意としている戦法だよね」
「相手にしたら長期戦になるし引っ掻き回されることになる。さあ、2部隊はどう動くかな」
 
 生駒と戦う空閑くんは千佳ちゃんに向かう気がないようであった。……となれば、彼女を迎えに行くのは既にワイヤー地帯を作り上げた三雲くんと言うことになる。
 王子隊の樫尾に狙われた千佳ちゃんが逃げる。彼女のフルシールドはかなりの強固さを誇るものの、シールドを壊す意味ではなく、彼女に鉛弾とハウンドを撃たせないようにするためなのだろう。
 それは限りなくこの一点に集中している証拠だ。慎重に追い詰める樫尾は序盤で三雲くんを逃したことを後悔しているような素振りだ。
 
「おっと、樫尾隊員の足が止まった?」
「千佳ちゃん上手いね」
 
 走り続けていた千佳ちゃんが一瞬だけぴょんと跳ねた。彼女の挙動に神経を尖らせている樫尾がそれをみてワイヤー地帯だと疑うのも無理はない。
 しかし、それは千佳ちゃんが機転を利かせた行動であって、実際はワイヤーなんてない。縮めた距離を離されたこと、そして三雲くんの登場にその場の状況は一転した。
 脚が止まった樫尾に向かって千佳ちゃんの多量な鉛弾ハウンドが降り注ぎ、樫尾の左脚が奪われる。そうこうしている間に三雲くんがレイガストで距離を詰め、スラスターで樫尾を分断させたのだ。
 
「カシオはあと一歩って所だけど、千佳ちゃんのブラフに惑わされたね」
「まあ、罠があるって思わせるだけで判断力を欠くことが出来るからね。自然にそれをしてみせた彼女の機転に救われたね」
 
 樫尾が落ちたので王子隊は王子のみとなってしまった。得点としては玉狛2点上げている形となった。
 
「お、あっちでも動きがあるみたい」
 
 今まで攻防を繰り返していた生駒と水上、空閑くんの局面に変化が現れた。
 水上のアステロイドに見せかけたメテオラで爆風が舞う。その爆風に便乗して生駒の生駒旋空が空を両断する。気配を読んで上へ跳び上がった空閑くんを狙うのは隠岐の狙撃だ。
 生駒隊の連携に咄嗟のシールドを張る空閑くんであったが、右手を失う形となった。
 隠岐がフリーで空閑くんを狙えていると言うことは、王子は三雲くんのほうに移動したのだろう。
 徹底しての三雲くん狙いをする王子はバックワームを装着し彼らの前に現れた。
 

「空閑くんを生駒隊が足止めしている今、王子は玉狛の2点を獲ろうと動いたみたいだね。中々打算的じゃないか」
 
 恐らく、今回の戦いで最弱ツートップは三雲くんと千佳ちゃんだ。フリーの今は絶好のチャンスと言えるだろう。ワイヤー地帯に入る前で食い止めてしまえば、空閑くんの攻略も単調になる。
 
「うーん、此処は正念場だね。三雲くんの働きで玉狛の生き死にが決まる」
「王子はオッキーを狙うと思ってたけど、一貫して玉狛狙いなんだね。一応もうすぐワイヤー地帯に入るはずだし、空閑くんが居れば玉狛がガン不利って訳じゃなさそうだけど」
 
 意外だと言いたげな北添の言葉にギャラリーも何人かが頷く様子をみせたが、玉狛のワイヤー戦法の神髄を知らない様子だ。
 
「甘いね。ワイヤー戦法の要は千佳ちゃんだ。罠と空閑くんが揃うから厄介なんじゃない。罠の向こうからバンバン狙ってくる狙撃手が居るからこその戦法なんだよ」
 
 ワイヤーが邪魔で建物を壊したい。しかし、壊してしまうと射線が通ってしまう。この二重の罠こそが玉狛のワイヤー戦法だ。
 
「狙撃手を落とすにはワイヤー地帯に入らないといけないけれど、ワイヤーを使って機動力を強化した空閑くんと真っ向から戦うことになる。このジレンマがややこしいんだよ」
 
 王子はその玉狛のワイヤー戦法をよく理解している。だからこそ、今この場で三雲くん、いや、千佳ちゃんを落とそうとしているのだ。
 
「王子は右手のハウンドで千佳ちゃんを牽制しつつ三雲くんにも攻撃を当てている。左手で弧月を持つのは不利なように見えるけれど、そこは経験の差だよね」
 
 自らの技量を過信しすぎている訳ではなく、冷静な分析に基づいた判断での上だ。
 あっと言う間に決着はつき、あがく三雲くんの首を掴んで弧月で一刺ししたことで三雲くんはベイルアウトとなる。
 
「うーん、逃げきれないか? まあ、どう足掻いても空閑くんのいない所が穴になる。玉狛の弱みだな」
 
 しかし、千佳ちゃんは予想外の行動を取ってきた。
 今まで鉛弾としてしか使ってこなかったハウンドを素の状態で発動させたのだ。それは普通の射手がする行動と同じで、咄嗟に考えてしまったのは“撃てるのか?”ということであった。
 突然の出来事に会場がどよめく。
 今までの経験上、はったりだろうと考えるのが確かだろう。しかし、あれだけの量を一度に受けるとなれば無傷ではいられない。
 結果的にそれははったりで、王子の手前で地面にぶつかって土煙をあげた。しかし、その一手で千佳ちゃんはワイヤー地帯に潜り込むことが出来たのだった。