夏休みって、いいよね!

まず朝寝坊も夜更しも許される。宿題はちょっと面倒だけど、学校の時間割みたいに拘束がないから自分で好きな時にやれる。それ以外の時間は全て遊びに費やしたって構わない。そして夏は海やプール、山………どこに行っても楽しめる、素晴らしい季節だ!

今はそんな夏休み。楽しい楽しい夏休み。
………………なのに、

「な・ん・で!俺が委員長さんのお手伝いしてんの!?」
「君本当うるさいよね。クーラーがなかったら絶対夏に一緒にいたくない。」
「やかましいわ!じゃあ俺を呼ばないでくれる?俺だってせっかくの休みを委員長さんなんかと過ごしたくないから!」

しかもなんでよりによって今日なのさ。せっかく沢田たちに海に誘われてたのに。 じろくんは今年ほとんどバイトだから、俺は沢田たちに付きまとおうとか思ってたのに。
委員長さんからのメール無視して行っちゃおうかと思ったらリボ先生にばれて連行された。ひどい。
最近みんなして俺をいじめるんだ。前は獄寺だけだったのに今は沢田も精神的に強くなって
俺に対して冷たくなったから……。リボ先生は委員長さんの肩持つし。俺のが付き合い長いのに……裏切り者め…。あの中で俺に優しいの山本しかいない。

「はー……沢田たちと海行く予定だったのになー。」

聞こえよがしに言うと、ものすごい目で睨まれた。
……睨まれるのなんかじろくんで慣れてるからちっとも怖くないもんね!ばーかばーか!
あ、口には出さないよ?またトンファーとんでくるから。俺だって学習するんです。

委員長さんはそれでも不機嫌そうにこちらを睨んでくる。それに気づかない振りをして書類に手を伸ばした。





「はああ………終わり?もう終わりだよね?」

てか終わってなくても俺帰る。結局今日丸一日応接室こもりきりだったし。俺の問い掛けに委員長さんは答えず、ただ片付けを始める。
……委員長さんって仕事終わると無口になるよね。お礼くらい言ってほしい。

「……もう4時半か。」

結構早く終わったと思うけど、さすがに今から行っても沢田たちはもう帰ってるよね。…………行きたかったのに。折角の休みだから遊びたいと思って楽しみにしてたのに、委員長さんのアホ。終いにゃ泣くぞコラ。

「……行くよ。」
「え!?は、ちょ…ちょっと待ってよ!」

勝手に片付けを終えた委員長さんがさっさと出ていこうとする。ここまでがんばった俺に労いの言葉はないのか!
慌てて追いかけるけど、なんで俺が必死に委員長さんの後を追ってるのかって?答えは簡単。前“動きたくない”って言ってうだうだしてたら、俺を学校内に残したまま委員長さんが鍵を掛けやがったからだ。あれは泣く。
委員長さんは競歩選手かってくらいさかさか歩いてるから俺は小走りだ。決して俺の足が短いとか背が低いとかじゃないよ。俺委員長さんと身長ちょっとしか違わないし。それに委員長さんは日本男児だから短足のはずなんだ。比べたことないから知らないけど。

まあ、だから校舎を出てしまえば安心だ。もう委員長さんを追う必要もないわけで。

「それじゃバイバイ。……っうわ!?」
「こっちだよ。」

委員長さんに背を向けて歩き出した瞬間に後ろ手を思い切り引かれる。バランスを崩し抵抗もできずに引っ張られる。
…………どっちだよ!?
有無を言わせず引き連れられたのは教員用の駐車場。普通の中学生ならおどずれない場所だ。しかし、俺は前に一度来たことがあった。

――――――――だからこそ、断固拒否する。

「やだやだやだやだ絶っっ対やだ!!」
「騒ぐなうるさい。」

………うるさいって言われても嫌なものは嫌だ。俺は前委員長さんのバイクに乗った時、二度と乗らないって神様に誓ったんだ!……俺はまだ死にたくない。
そう……前に沢田家から学校に連行された時、確かにここから校内にはいった。

「いい加減にしなよ、何が怖いんだ。僕が事故なんか起こす訳ないでしょ。」
「そういう奴に限って大きい事故起こすんだ!」

というか人を乗せるならまず免許取って欲しい。そして俺の分だけでもヘルメットを寄越せ!この人無免許+ノーヘルだよ?信じらんない。

「君うるさいね。……乗らないなら………轢くよ?」
「そんな脅し効くわけ……って目!委員長さん目すごいことなってる!
エンジンかけるなバカーーー!!」

委員長さんの目は本気で俺を轢き殺そうとする目でした。




「ギャーーー!!バカバカバカーーー!!」
「………耳元で叫ばないでよ。」

結局負けました。というか基本、俺が委員長さんに勝てるわけがない。口はたつが力で負ける。殴られても文句は言い続けたりするけど、流石に殺されそうになったら聞くしかない。………そういう訳で今現在乗ってますけど何か文句あります? ………仕方ないじゃない。言い出したら聞かないんだから。
ギャンギャン叫んでたら、キキ、と止まった。

「着いたよ。…はあ……うるさかった。」
「“うるさかった”じゃない!てかここどこ……………、…海……?」

なんで海。
そんな俺の疑問を無視して委員長さんが歩き出す。

「あのさ委員長さん、俺海行きたかったとは言ったけど、それは“沢田たちと”っていう前提があってのことで、別に委員長さんとは来たくなかったんだけど。」
「君も大概失礼だよね。」

だって委員長さんと来ても別に楽しくないし。こうやって海辺歩くだけでしょ?俺は沢田たちと来たかっただけで、そして海で泳ぎたかった訳です。………もう夕方で、人もいないしさ。いても委員長さんがいればみんな逃げちゃうけどね。
だけど折角来たのだし、歩く彼を追う。そもそも足が彼のバイクだから、委員長さんが満足するまでは帰れない。……いざとなればタクシーでも捕まえるけど、なんだかそれも癪だ。
砂地の歩きにくさなど感じていないかのようにドンドン進まれる。俺の靴の中にはどんどん砂が入ってきて気持ち悪い。少しは後ろを見て歩けと言おうとして、足下を見ていた顔を上げた。そうした矢先に彼は立ち止まり、振り替える。
何か言いたそうにこちらを見ているのは何なのだろう。

―――ザア、と風が吹く。海の香り。

………あれ。

「……なんか、ここ……。」
「どうしたの。」

来たことがあるような気がする。
気のせい、かな。……気のせいだよね。そうに決まってる。だって俺は日本で海に来たのは始めてだ。だからこそ今日、沢田達と来るのを楽しみにしていたんだ。
多分、イタリアにいた頃の記憶とごっちゃになってるのかもしれない。きっと似たような所があったのだろう。…………うん。気のせいだ。

「……、委員長さんはここに来た時あるの?」

それを聞いたのは特に深い意味はない。ただ、さっきから何か言いたげだから。……そう聞いて、反応を見ようと思った。

「………………。来たことあるに決まってるでしょ。僕が並盛内で行ったことない場所なんかないんだから。」
「…………そう。」

気のせい……。

「委員長さんは、何か知ってるの?」

つい、口が開いた。
これを聞くのは駄目な気がした。こんなの、俺に「何か」あると俺自身で認めているようなものじゃないか。
だけど、この人がらしくない顔をしているから。言いたくても言えない、そんな不安定な顔をしているから。そんな顔されたら、手を引きたくなるじゃないか。

「知らないよ。」

彼は何が?などととぼけることはしなかった
。それに少しほっとする。聞かれたって応えようがない。

「なんで僕が何か知ってるって思ったの。」
「………何となくー。」

探るような視線に苦笑いを浮かべる。

「なんか委員長さんは何でも知ってそうじゃない。」
「君のことなんか、僕は知らない。」

だって君は何も言わないじゃないか。

咎めるような声色と見透かす視線に、思わず目を見開いた。
海から一際強い風が吹く。砂が舞った。
――――痛いなあ。
目に入ってしまった砂を流そうと自然と涙が出たけど、すぐかれた。目が疼くなって擦る。その手を無理矢理つかまれ、上を向かされた。

「……何見てんの。」

咄嗟に何でもないように言う。

「泣いているのかと思って。」
「…………泣くわけ、ないでしょ。」

なんで、貴方は。
そういう言葉が出てきそうになって、とめた。何故そんな言葉がでてきたか、わからない。いや、わからなくは、ないけれど……それを言った所でどうすればよいのか。
―――俺自身を誤魔化していることが多すぎて、自分でも辻褄があわなくなっているのに。

口を開いて、閉じた。そしてまた、口を開き、今度は言葉を発する。

「……あのさ、何考えてるのか知らないけど、俺は貴方と一緒にいるの嫌いじゃない。楽しいよ。
だから、今はもうやめて。俺、今はやめて、としか言いようがないんだよ。」
「……意味がわからない。」

考えなんてまとまってない。

「うん、だと思う。……ありがとう。」

何に対しての礼か。おそらくは、彼が“意味をわかっていない”ことに対してなのか。

「……どうでもいい。帰るよ。」

髪にまとわりついた砂が、少しだけ不快だった。



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