4.風間蒼也と私と菊地原。


「あ。きくっちー。」

「げ。」


私と会うと菊地原は露骨に嫌そうな顔した。

私は満面の笑みなのに。

「げ。って何。相変わらず愛想がなくて可愛いなぁ。」

「やめて。きもちわるい。」

頭なでなでしてるだけなのに。

「その年上にため口使うところも生意気で可愛いよね。」

「あんたは可愛くないけど。」

「照れちゃって。」

「別に照れてない。」

「きくっちーのそのエリカ様みたいなとこ、風間に似たんじゃない?」

「僕はそんなつもりないけど。あ、風間さん。」

「珍しいな、2人でいるなんて。」

「意外ときくっちーは私のこと好きだよね。」

「別に好きじゃないし。むしろ嫌いだし。」

「はい、また照れるー。もう可愛い。弟にしたい。」

ぎゅーーっと菊地原に抱きしめる。

「うわぁ。風間さんたすけて。」

「ひどい!」

「みょうじ、離れろ。菊地原が可哀想だ。」

「お、なに、風間もぎゅーされたい?」

「何言ってんだ。」

しかし風間は少し目をそらした。

あ、可愛い。

「いだだだ。みょうじ、くるしい。」

「抱き殺すつもりか、お前は。」

「えぇ、可愛いんだもん。風間もきくっちー抱きしめたくなるよね?」

「ならん。」

「嘘だ−!」

「ていうか、みょうじってすぐ人に抱きつくよね。きもちわるい。」

「なんか人肌恋しいんだよ。気持ち悪くはない。」

「そんなにお前そこら中の人に抱きついてるのか。」

「歌川にもするでしょ。あと来馬さんとか嵐山さんとか色々。」

「そんな男だけじゃないよ。最近は玉狛のちかちゃんまじ可愛い。」

「あぁ、あの子。」

「木崎が弟子にするのも分かるわ。あのかわいこちゃんにお願いしますとか言われたOKする。」

「ロリコンなのかな。」

「木崎がロリコンでも木崎は良い筋肉だから許す。」

「良い筋肉ってなんだ。菊地原。」

「はい。」

「鬼怒田さんに呼ばれてたぞ。」

「あぁ、またか。めんどくさいなぁ。」

「ファイト〜。」



だるそうに菊地原は去っていった。



「…いやぁ、きくっちー可愛かったなぁ。」

「お前、」

「ん?」

風間は言いよどみ、目をそらした。

「なに。」

「何でもない。」

「気になるし。」

「…そこら中の男に抱きつくな。それだけだ。」

そう言うとくるっと背を向け歩いて行った。

「…抱きしめられたいのー?」

離れていく風間の背中に大声で叫ぶ。

「うるさい、バカ。」

振り返らないで風間は大声で返事をした。




風間のことも、もちろん抱きしめたいと想っている。可愛いし。

けれど風間はなんでだろう、駄目なんだ。

どうしても恥ずかしい気持ちになってしまう。なぜだろう。


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