愛しいあなたへ愛を込めて
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 街はバレンタイン一色で、例に漏れずブルーベルでもこの時期に来店された方にはサービスを行っている。クッキー数枚とかマドレーヌ一個とか、ちょっとしたものだけど案外喜んでいただけるのだ。何個も作るとなると前日から準備したりと大変だけど。
 という話をしたら、それまで私の話を楽しそうに聞いていたユアンの顔つきが少しだけ変わった。

 「……それ、セレナが作ってるの?」
 「うん、そうだよ。キャンディーやチョコレートはさすがに市販のものだけど、クッキーぐらいなら材料も揃ってるから作る方が安くなるの」

 ブラッドレイ家の別荘でユアンと二人きり。会えない時間がある分、こうやってお互いに何をしてたか話をすることがあるのだけど、どうやらユアンは何かに引っかかったようだ。

 「貴女の手作りを他の男が食べたなんて、少し妬ける」
 「妬ける……?」
 「少しじゃないな、だいぶ妬ける」

 恥ずかしげもなく言い切るユアンの言葉を反復した。分かりにくいようで分かりやすい彼は、どことなく拗ねたようにも見える。

 「女の人も多いし、それにお客さんだから……」

 ユアンが思うほど深い意味はないよ、と伝える前に、ぐっと腰を引き寄せられた。ぴたりと密着する体勢になってしまって、急にどくどくと心臓が分かるくらいに音を立て始める。

 「俺も食べたい」
 「わかった。今度作ってるくるね」

 甘えるように肩口に顔を寄せたユアンの髪が揺れる。擽ったいやら恥ずかしいやら、とにかくまだこの距離に慣れなくてどきどきしてしまう。

 「バレンタイン当日が良い」
 「うん」
 「手作りのもの」
 「うん」
 「セレナの特別が欲しい。……他と一緒じゃないものを作って、っていうのは我儘?」

 顔をあげて尋ねたユアンが私の返事を待ってる。

 「ユアンにだけね。……恋人だもの。それくらいさせてほしいな」

 瞬間、嬉しそうにはにかんだユアンに右頬へちゅっとキスをされた。軽くて小さなキスだけど、私を真っ赤にさせるには十分だ。

 「……困ったな。俺は貴女の特別になれたはずなのに、どんどん欲しいものが増えてしまう」

 ユアンの目元が微かに赤い。
 そんな彼の熱っぽい視線にあてられてるせいか、腰に添えられてる手を変に意識してしまう。

 「誰にも何も渡したくない。余すことなく独り占めしたいなんて、子供染みた独占欲だ」

 私だって、ユアンの柔らかな声もその想いすらも愛しいと思うんだからお互い様なのに。

 「……でもごめん。我慢できそうにないから、貴女の特別は全部俺にくれると嬉しい」

 息のかかる距離でそう言ったユアンに口元が緩む。今日はユアンが可愛く見えるなんて言ったら怒るだろうか。

 「なんだかユアン、可愛いね」
 「……俺が? 可愛いのは貴女の方だと思うけど」

 本当に不思議そうな顔をしてユアンが首を傾げた。すると今度は唇に柔らかいものが押し当てられて、それがユアンにキスされた感触なんだと気付くのに時間はかからなかった。

 「ほら、やっぱりセレナの方が可愛い」

 さっきよりも頬が熱い。確実に赤くなってるだろう私に、ユアンが悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。

 「バレンタイン、期待しててね……!」

 恥ずかしさを紛らわすために話を戻せば、ユアンが満足そうに頷いてた。
 ちゃんと愛を込めるから待っててね、と心の中で呟いて、ぎゅっと抱きしめ返してみせたのだ。



fin*

0213 イケシリワンライ





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