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お昼は可愛い



「…苗字さんて、行動がカッコいいよね」
「思ったー!顔も宝塚にいそうな感じで、凄く優しいし!」
「苗字さんが男の子だったら絶対惚れてたわ、私」

嬉しいような嬉しくないような会話が遠くから近づいてくる。私は掃除をしながら隅でその話を聞いていた。苗字さんというのは私で間違いないと思う。


"紳士な女子"と言われ続けて早く5年。小6からその片鱗は垣間見えていた。なんでも先生に言われたことはやってのけた。やらなくてもいいようなところまで丁寧にやってのけた。そしてやった後に誰かに褒められるのが嬉しくて、何度も何度も人のためになるようなことをやり続けた。きっとそのお陰で、今はこうして自然に役立つようなことができているんだと思う。

例えばこの前。階段で沢山の数学のノートを運んでいる見知らぬ女子の隣に近寄って、ノートを半分以上持った。彼女は下級生で、私の知らない子だった。………その日以来毎日のように教室に来てお菓子を届けてくれるようになった。

まだまだこれだけじゃない。あとはバケツの水を零しちゃった子と一緒に床を拭いてあげたり、嫌な仕事周りを率先して引き受けたり、階段で躓いてしまった子の手を咄嗟に掴んだり…。とは言ってもそこらへんの男子よりもちょっとだけ優しくしているだけ。


とまぁここまでは当たり前のことだと思う。でも私には当たり前のことをスタイリッシュにこなして見えるのだそうだ。よく分からないけど、友達が目を輝かせてそう言ってくれた。要するに私は紳士的というだけだ。

女の子に告白されちゃった時は驚いたけど、私はそっちの方の趣味はない。女の子は可愛いと思う。告白してきてくれた子もみんな可愛かった。私には全くない要素。だから、一度くらいは"可愛い"とか言われてみたいなぁ。

男前!とか紳士的!とかよりだったら断然可愛いと言われたい。かと言って今更キャラを変えるきにはなれないし、髪型も急にロングにはなったりしないし。まぁ少しずづ変わっていけばいいんだよね。

「あー…ホント可愛いなァ。食っちまうぞ!?」

物騒な声が聞こえてきた。まさか……そういう雰囲気になってる…!?学校でそんなことはないか…。でも気になるものは気になるっ!そう思って私は恐る恐る声のする方へ目を向けた。

「マジで、可愛い」

そう言っていたのは、"怖い"とか"目つきが悪い"とかで有名な荒北君だった。信じられない……。まさかこんな場面に遭遇するなんて。動物を戯れあってるその男の子の意外な一面を垣間見て、きゅんとする瞬間とか、よく少女漫画とかで見たことがある。まさしく、そんな感じなのかなぁ…。

兎に角、ここは見なかった事にしておこう……っと。

「………おい、ソコにいんのは分かってんだよ。誰だ、テメェ」

口悪っ!

『あ、…あら、荒北君!私何も見てないから!あ、あとその猫は私も可愛いと思うよ!』
「思いっきし見てんじゃねーェか!」

いや、決して墓穴を掘ったとかそんなことはしてない。何も恥じらうことはしてない。

「ニャー、ニャー」
『わっ、可愛い!』

荒北君と二人きりで、緊張のあまり動けずにいると、荒北君の方にいた猫が擦り寄ってきた。ちょっとした温もりに目がけて手を伸ばすと、大人しく抱かれてくれた。

『……名前とかってあるの?』
「…ねェよ」
『そっかぁ…じゃあ………猫次郎とか、ニャン子とかどうかな?』
「俺はお前のネーミングセンスを疑うネ」
『え、じゃあ荒北君はなんて名前つけるの…!?』
「……猫」
『そのままじゃん!』
「ッセ!なんも思いつかねーよ!」

ん?もしかして荒北君って想像よりずっと話しやすい人なのかも。なんか誤解してた。友達があまりにも恐ろしい気とばかり言うものだからそれを信じ切ってた。全然普通の人だった。

「言っとくケド、そいつオスだから」
『え、オス?じゃあ猫次郎………』
「だーかーら却下っつてんだろ。んなダッセぇ名前じゃ可哀想だボケナス!」
『んーっと…じゃ、じゃあ、ポチタマ!』
「どっちかにしろ!」
『えぇ……、分かった!にゃ太郎!』
「あ¨ー、もうそれでいいんじゃねーの」

荒北君のお許しが出たってことで一件落着!

「ニャー」

猫は愛くるしくてキラキラした眼差しを私に向けている。…………この猫、私より断然可愛い……!

猫を目指そうかと思ったお昼休み。