跡部景吾が

「……アーン?」

くじ引き箱から取り出した罰ゲーム内容に首を傾げれば、目の前の夢野が大袈裟に「わーい!跡部様に褒められる!」と手放しで喜んでいた。

「……俺様がお前の好きなところを言えば、お前が俺様に褒められるということになるのか?」

「え?!」

俺の言葉の意味がわからねぇのか、夢野はキョトンとした様子で目を見開いて、アホみたいに口を開けている。

「ちっ、仕方ねぇな。……俺様の辞書に不可能はねぇ。だからお前の好きなところを五つ、捻り出してやるよ」

「ん?ありがとうございます?!いや、待って、これすごくバカにされてるやつだ!!」

夢野が叫んだら、このクジ箱を俺の前に持ってきていた萩之介がクスクスと笑っていた。
俺の後ろにいる樺地も少しだけ目を細めて口角を上げている気がする。

「まずは一つ目……」

「よしきた!はいっ」

「ヴァイオリンを聴いていられるレベルに弾けることだな」

「跡部様、なんか言い方が素直に喜べません!」

「そういう言い方を選んだからな」

ふっと唇の端を吊り上げてから、夢野の額にデコピンをした。
「痛っ」なんて額を押えて俺を恨めしそうな顔で見ている夢野にまた唇の端が上がる。

「二つ目は、小心者のくせに……たまに物怖じしないところか。いや無意識の独り言だったか?……まぁ取り敢えず、俺様はお前の独り言の病気を気に入ってるってことだ」

「ぐっ。超バカにされてる気がするぅ……」

むぅと唇を尖らせている様にさらに目を細めた。

「三つ目。お前のヴァイオリンの名前」

「へ?ワルキューレですか?」

「あぁ、いいネーミングセンスじゃねぇの」
「ウス」

間髪入れずに俺に同意した樺地は、俺様がそう言ったきちんとした理由を理解しているのだろう。

「四つ目。お前の忙しない性格だな」

「忙しない性格とは?!」

段々と俺の発言にフラストレーションが溜まり始めたのか、夢野はブツブツと言いながら手を落ち着きがないようにバタバタさせていた。
そういう所だよ、と口にはせず夢野の頬にそっと手を添える。

「アーン?俺様が口で一々説明してやらねぇとわかんねぇのか、てめぇは」

「ひ、ひぃっ」

真っ赤な顔で間近に迫った俺の顔から視線を逸らして、ぐるぐると目を回し始めた。
それがまた可笑しくて、くくっと喉を鳴らして笑う。
パッと手を離してまともに息を吸い始めた夢野を流し見た。

「跡部様跡部様、なんだかもう大変です」

「アーン?あと一つ残ってんだろ。最後の一つ」

「聞きたいような聞きたくないような……私の乙女心は複雑なのですよ」

「馬鹿だったなお前は」

「なんですと?!言葉の暴力反対!」

わーわー言い始めた夢野にため息をついてから、萩之介が俺にニコニコと意味深な笑みを浮かべてあることに眉間に皺を寄せる。

「……アーン?」

「いやーなんでもないよー。景吾くんの五つ目にワクワクが止まらないだけー」

「てめぇは……変なやつだな。自分のモノにしたいのか他人にやりたいのかどっちなんだよ」

「さぁー、どうだろーねー」

白い歯を見せながら笑った萩之介の頭を一度ペシりと叩いてから、夢野に向き直った。

「……俺様がお前の好きなところの五つ目だが」

「は、はひっ」

「……反応、だな」

「…………は?」

眉間に皺を寄せて俺を見上げている間抜けな顔に吹き出してから「そういうとこだ」と高笑いする。
意味不明だとばかりに首を傾げる夢野の頭を撫でた。

「……好きだぜ?」
「へ?!」

それから顔を近づけて、耳元すぐ側でそっとささやいてやったら、一瞬にして夢野の顔が真っ赤になる。口をパクパクさせて「げ、幻聴が!」と叫んでいるアホに目を細めた。

「だから、こういうとこだよ。バーカ」

コツンっと軽く額を小突いてから、踵を返す。
樺地に紅茶をいれてくれと頼んでから、ソファに腰掛けた。

まだ呆然として、一人であわあわと何かを口に出している夢野の声を聞きながら瞳を閉じる。

……まぁ、まだ言いたいことはたくさんあるが、今日はこのぐらいで勘弁しといてやる。

それに罰ゲームは五つまでだったからな。


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